化学療法による末梢神経障害とその後の生活について

 肺癌のみならず、抗がん薬による化学療法はしばしば手足のしびれを主な症状とする末梢神経障害を引き起こします。

 実地医療では漢方薬や抗けいれん薬などを使うことにより、神経性の痛みを緩和する試みがなされますが、感覚障害そのものを改善する治療はほぼありません。

 

 女性の「がんサバイバー」を対象とした調査報告が、先だってカリフォルニア州サンフランシスコで行われた「がんサバイバーシップシンポジウム2016」でありました。

 この報告によると、

・抗がん薬治療の種類にもよるが、治療を受けた患者のうち概ね57−83%が治療中もしくは治療終了後に化学療法による末梢神経障害の症状を示す

・どの患者が治療に関連した末梢神経障害に見舞われるか、その症状がどの程度続くのかを予測するすべはない。

・実地臨床において、治療に関連した末梢神経障害を早期に検出する有用な診断ツールはない。

・今回は、女性のがんサバイバー462人を対象にして、転倒や骨折の予防を目的としたがんリハビリテーションの介入効果を見るための検討を行った。

・参加者のうち71%は乳がんの患者さんで、ほかには肺がん、大腸がん、卵巣がん、血液腫瘍の患者さんが含まれていた。

・がんと診断されてからの経過年数は、平均6年だった。

・45%の患者さんは、手足の感覚障害といったがん薬物療法に起因する末梢神経障害の症状を訴えていた。

・末梢神経障害の有無は、身体機能の低下や、料理や買い物といった日常生活に難がある、という点で有意に相関していた。

・末梢神経障害を有する患者さんでは歩行パターンに変化が見られ、末梢神経障害のない患者さんと比較して約2倍の転倒リスクがあった。

・がん薬物療法による末梢神経障害を抱えた患者さんのリハビリテーションでは、加齢やその他の疾患で身体機能が衰えた患者さんとは違ったアプローチが必要である。

・これらの患者さんでは筋力低下をあまり認めないが、動作や歩行のパターンに配慮する必要がある。

・これらの患者さんの中には椅子からの立ち上がり動作が難しい人がいるが、足から中枢神経への間隔入力が損なわれているために、どのくらいの速さで、どのくらいの力を入れて立ち上がればいいのかがわからないのだろう。

・具体的なリハビリテーションの内容を挙げると・・・

−転倒のリスクが高いため、屋外歩行よりも屋内での手すり付き歩行器訓練の方が安全である。

−筋力トレーニングよりも、立位バランス訓練などにより重きを置くべきである。

・・・といったことが議論されたようです。

 国民の半分ががんにかかる我が国。

 当院は多数のリハビリ患者さんを受け入れていますが、確かに考えてみると、がん治療を経験した患者さんには手足のしびれを伴っている方が多いかも知れません。

 がんリハビリに取り組む病院は増えましたが、がんの患者さんに特化したリハビリを行っているわけではないので、こうした知見にアンテナを張っておくことは必要ですね。