悪性胸膜中皮腫に対するリステリア免疫療法

 こちらも、ELCC2016から。

 うわさには聞いていましたが、悪性胸膜中皮腫に対するリステリア免疫療法の結果が報告されたようです。 

 全く新しい治療概念です。

 生きた病原菌を患者さんに注射するなんて、さらにそのあとに引き続いて感染症の増悪を招く恐れのある化学療法を行うなんて、しかもそれで菌血症、敗血症に関わる致命的な有害事象の報告がないなんて・・・。

 おっどろき!です。

・Abst. #208O_PR, Jahan et al.

 悪性胸膜中皮腫に対して、化学療法にリステリア生菌を用いた免疫療法を併用するPhase Ibの臨床試験が行われ、90%以上の病勢コントロール割合、59%の奏効割合が得られた。

 悪性胸膜中皮腫は肺を裏打ちする胸膜から発生する腫瘍で、稀ではあるが治療が難しい。標準治療はシスプラチン+ペメトレキセド併用化学療法だが、奏効割合は30%程度で、生存期間延長効果は限定的である。悪性胸膜中皮腫では、腫瘍内にメゾテリン蛋白が強く発現されている。CRS-207は生物工学によって病原性に関わる2ヶ所の遺伝子を欠失させ、メゾテリンを発現するようにデザインされたリステリア菌の弱毒株である。

 過去の検討では、メゾテリンを発現する腫瘍に罹患した患者にCRS-207を使用すると、抗メゾテリン反応が惹起され、腫瘍特異的な細胞免疫反応が起こることが確認された。また、化学療法との相乗効果を示唆するデータも確認されており、CRS-207と化学療法の併用は理にかなっている。

 化学療法施行可能な切除不能進行悪性胸膜中皮腫患者を対象に、CRS-207と標準化学療法の影響を確認する臨床試験を行った。38人の患者が参加し、当初2週間ごとに2回のCRS-207投与を行い、3週ごとに最大6コースのシスプラチン+ペメトレキセド併用化学療法を行い、続いて2回のCRS-207投与を3週ごとに行った。さらに、適格患者は8週ごとにCRS-207維持投与を行った。8週間ごとに病勢評価を行った。

 観察期間中央値は9.4ヶ月(0.2-28.1ヶ月)、奏効割合は59%、病勢安定は35%、病勢コントロール割合は94%だった。無増悪生存期間中央値は8.5ヶ月だった。

  CRS-207に関連する主要な毒性はスパイク状の発熱と悪寒戦慄だった。infusion reactionといっていいもので、24時間以内には緩解した。

 プロトコール治療後に3人の患者において腫瘍組織の免疫組織化学的分析が行われたが、腫瘍組織内への著明な白血球浸潤が確認された。CD8陽性細胞、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞が動員されていた。

 現在、第III相試験の計画が進行中で、今年中には何らかの動きがあるだろう、ということだった。