My Pathway Study

 今回取り上げるMy Pathway trialでは、治療対象を4系統の分子標的に絞って、これらの遺伝子異常を認めた患者さんに限って臨床試験を進めています。

 従来の臨床試験と異なるのは、臨床試験を進めながら、あまり将来性のない治療には見切りをつけて早々に中止し、有望な治療に注力する、という柔軟な運営をしていることです。

 以下に内容を記します。

 それにしても、比較的早期の段階の臨床試験の、それも初期報告とか中間解析時点の報告が注目されることが、ここ最近の国際学会では増えました。

 それだけ、治療開発の速度が速いということなのでしょうね。

ASCO 2016: Precision Medicine Approach May Expand Therapeutic Options for Patients

By The ASCO Post

Posted: 6/4/2016 1:16:10 PM

Last Updated: 6/4/2016 1:16:10 PM

ASCO 2016 Abst. #LBA11511

 分子異常を有する腫瘍に対して、それに対応する分子標的治療を行う第II相試験の初期報告が成された。異なる12種の進行がん患者129人のうち、29人が米国食品医薬品局が承認していない治療で改善した。有望な治療反応が得られた、特定の分子異常を有する4種のがん種については、さらに参加者を募って効果の検証が進められている。

 筆頭発表者のJohn D. Hainswortは、

 「がんに対する遺伝子検査は実用化が進んでおり、我々が行ったような研究はより多くの患者に対してprecision medicineを提供する助けになるだろう」

 「結論を出すには時期尚早だが、今回我々が確認した結果から考えると、HER2に対する分子標的治療は現在認められているHER2陽性乳がんやHER2陽性胃癌以外にも拡大できるかもしれない」

 「HER2増幅を伴う大腸がんや、その他のHER2陽性がんに対してもHER2に対する分子標的治療が有効となるだろう」

とコメントしている。

MyPathway Study

 "My Pathway"は現在も進行中の無作為化、オープンラベル試験で、有効な治療がない進行がん患者に対する4種の治療レジメンの有効性を検証する試験である。米国国内で39の施設が参加している。

 本試験に参加するに当たっては、患者はHER2, BRAF, Hedgehog, EGFR経路に異常がないかを検索する試験に予め参加する必要がある。これらの経路に異常が見つかった患者は、その結果に応じて対応する標的治療に割り付けられる。HER2異常(増幅、過剰発現、遺伝子変異)を有する患者はtrastuzumab(Herceptin)+pertuzumab(Perjeta)併用療法に、BRAF遺伝子変異を有する患者はvemurafenib(Zelboraf)療法に、Hedgehog経路遺伝子変異を有する患者にはvismodegib(Erivedge)療法に、EGFR遺伝子変異を有する患者はerlotinib(Tarceva)療法にそれぞれ割り付けられた。また、患者のがん種に対して、これらの治療が適応と認められていない場合を本試験参加適応とした。

 当初129人の患者が本試験に参加した。82人がHER2異常(遺伝子増幅53人、遺伝子変異23人、遺伝子増幅+遺伝子変異共存5人、RBMS-NRG1融合1人)を、33人がBRAF遺伝子変異(V600E遺伝子変異18人、その他の遺伝子変異15人)を、8人がHedgehog経路遺伝子変異(PTCH1遺伝子変異7人、SMO遺伝子変異1人)を、6人がEGFR遺伝子変異を有していた。全ての患者は進行固形がんの患者で、平均3レジメンの前治療歴を有していた。12種の異なるがん種を有する計29人の患者が、なんらかの分子標的治療に対して反応を示した。うち14人は中央値6ヶ月(3ヶ月-14ヶ月)の間に進行した。15人はいまだ病勢進行に至らずに治療を継続している(経過観察期間は3ヶ月から11ヶ月)。

 最も有望な治療効果が得られたのは、HER2異常を有する患者群だった。大腸がん患者20人中7人、膀胱がん患者8人中3人、胆道がん患者6人中3人は腫瘍最大径が30%以上縮小(部分奏効,PR)した。この結果に基づき、これらのがん種については患者募集が継続されることになった。

 BRAF遺伝子変異を有する肺がんでも、患者募集が継続されることになった。BRAF遺伝子変異を有する肺がん患者15人において、3人で奏効を認め、2人は少なくとも4ヶ月は病勢安定を維持している。

 本試験は最大500人の患者集積を見込んでいる。治療の有効性が見込めない群では早期に試験を終了し、一方で有効性が見込める群では患者募集を継続することになっている。また、検索している遺伝子異常に対して新たな治療薬が出てきた際には、治療群を追加することになっている。たとえば、MEK阻害薬であるcobemetinib(Cotellic)は、BRAF遺伝子変異陽性の患者に対するvemurafenibに対して、間もなく併用が開始される。その他の新規治療も将来的に追加される予定である。