liquid biopsyの妥当性に関する大規模調査

 liquid biopsyは肺がん領域の専売特許ではないようで、今回はさまざまな固形がんにおいてliquid biopsyと腫瘍組織生検の結果整合性について大規模な検討が成されています。

 LC-SCRUM Japanでは現在までに肺がん患者3000例規模の解析が進んでおり、これは誇るべき成果ですが、今回の報告は50種以上の固形がんに罹患した15191人の患者が対象となっており、うち肺がん患者が37%ということですから、ざっと5600人くらいの肺がん患者が解析済みということになります。

 これだけの数の患者に対して、組織検体のみならず、血液サンプルをも用いて網羅的遺伝子解析をしているということですから、この分野ではわが国が米国の後塵を拝していると言わざるを得ません。

 The ASCO Postからの転載ですが、あまり細かいデータが含まれておらず、散文的な内容となってしまいました。

 いずれちゃんとしたデータを入手できたらいいのですが・・・。

ASCO 2016: Liquid Biopsy May Help Guide Treatment Decisions for Patients With Advanced Solid Tumors

By The ASCO Post

Posted: 6/4/2016 1:45:32 PM

Last Updated: 6/4/2016 1:45:32 PM

ASCO 2016 Abst. #LBA11501

 今回の大規模遺伝子解析研究において、古典的な腫瘍生検とほぼ同様の遺伝子異常パターンが血液サンプルから見出されることが明らかになった。50以上の異なるがん種の15000人以上の患者から血液サンプルを採取した本試験は、この種の臨床研究の中で最大規模である。

 

 「微量の患者血液中の腫瘍DNAを分析するliquid biopsyは、組織生検が安全にできない、もしくは組織生検では十分な遺伝子解析ができない場合においてはとても臨床情報に富んだ、しかも低侵襲な代替手段になりうる」

 「さらに、Guardant360として知られる今回利用した検査キット(70遺伝子座を同時解析可能な次世代シーケンサーシステム)は、経時的ながんの変化をモニタリングすることも出来るため、患者と担当医がそのときどきの最適な治療を議論するうえで決定的に重要である」

と今回の筆頭演者であるPhillip Mack博士はコメントしている。

 現状では、腫瘍が使用可能な治療薬の標的となる特定の遺伝子変異を有するかどうかを調べるにあたり、医師は腫瘍生検に多くを依存している。腫瘍生検は外科的生検をも含むが、それを受ける患者は生検を受けられるだけの健康状態を保っているとは限らないし、腫瘍生検を頻繁に行うこともそうそうは受け入れられない。

 腫瘍細胞は、そのDNAや遺伝子産物を少量ながら循環血中に流出させている。これはcirculating tumor DNA(ctDNA)と呼ばれるが、血液サンプルから抽出して検査室で解析することができ、腫瘍生検と同様に個別の患者の治療方針決定に際して有益な情報を提供してくれる。発表者らによれば、本研究は個別の患者に対する適切な分子標的治療を選択するためのctDNA解析を行った臨床研究としては最大規模だということである。

 本研究には15191人の患者が参加した。進行肺がん患者が37%、進行乳がん患者が14%、進行大腸がん患者が10%、その他の進行がん患者が39%だった。参加した患者はctDNA分析のために、血液サンプルを供与した。

 異なる2つの方法で、腫瘍生検組織を対照としてliquid biopsyの正確性を評価した。まず、腫瘍組織を用いた遺伝子変異検索により結果が判明済みの398人の患者のctDNAを用いて、血液サンプルと腫瘍組織の間の遺伝子変異パターン比較が行われた。EGFR, BRAF, KRAS, ALK, RET, ROS1といったドライバー遺伝子異常がctDNA検索で陽性となった場合、同じ遺伝子異常が組織検体で確認されていた割合は94-100%だった。ほとんどの場合、変異ctDNA含有量は非常に低い水準だった。全症例の半数において、循環血液中の総DNA量に対する変異ctDNAの含有量が0.4%を下回っていた。この状況下でも、liquid biopsy分析の正確性は高く保たれていた。

 また本研究では、ctDNA解析で検出された特定の遺伝子変異の頻度について、すでに文献化されている過去の腫瘍組織の遺伝子解析

結果 - The Cancer Genome Atlas(TCGA)試験を含む- との整合性についても検討された。liquid biopsyは腫瘍の遺伝子変異状態を正確に反映しているという結論に至った。

 概ねどの遺伝子異常においても、血液サンプルと組織検体の遺伝子検索結果の一致率は0.92から0.99の範囲にあった。しかしながら、EGFR阻害薬による治療後に見出されるEGFR T790M耐性変異のように、分子標的治療後の耐性変異に関してはctDNAで陽性となっても組織サンプルでは陰性、というケースが目立った。発表者らは、これらの遺伝子変化は組織採取時点では患者が無治療の状態であったため、組織検体を用いた変異検索段階では耐性変異が出現していなかったのだろうとの仮説を立てていた。

 血液サンプルを用いた遺伝子変異検索結果に基づき、研究者らは試験参加者の主治医に対して可能な治療オプションのリストを供与した。その中には米国食品医薬品局が承認した治療薬もあれば、参加可能な臨床試験で使用される治療薬も含まれていた。結果として、ctDNAを用いた遺伝子解析により約2/3(63.6%)の患者で適用可能な治療オプションが明らかとなった。

 liquid biopsyの臨床的有用性は肺がん患者において際立っていた。362人の肺がん患者のうち、腫瘍組織検体量が不十分だったのは全体の63%に及んでいた。これらの患者でもctDNAを用いた解析によって、重要な遺伝子変異が既知の頻度と同等の確率で認められ、結果としてliquid biopsyはこれらの患者にとって唯一の治療標的検出手段となった。

 liquid biopsyは病勢進行や治療反応性、治療に対する耐性獲得のモニタリング手段として、治療の節目節目において利用可能である。定期的なliquid biopsyは、単なる採血のみで行うことができるため、組織生検を反復するよりも患者の安全性や利便性という面で受け入れられやすい。加えて、ctDNAの遺伝子変異はしばしば画像診断における腫瘍増大に先行して出現するため、担当医がより迅速に治療内容を見直すのに役立つ。

 liquid biopsyには他にも、組織生検に比べて有利な点がある。腫瘍増殖を促進する遺伝子異常はしばしば腫瘍の部位によって異なることがある。組織生検は腫瘍の一部分からの小組織片しか採取しないため、採取した部位によっては重要な遺伝子変異が検出されないことがある。ctDNAの解析は、腫瘍に内在する全ての異なる遺伝子変化に関する情報を与えてくれる。

 「Precision Medicineの時代においては、各患者間の遺伝子異常相違のみならず、同一患者における経時的な遺伝子変化にも目配りしなければならない。優秀な、信頼の置ける検査手法が腫瘍生検に取って代わることは、適切な患者に適切な治療を選択する上で大きなインパクトを持っている」

とSumanta Kumar Pal博士はコメントしている。

 本研究では血液サンプルでctDNA解析を行った患者のうち83%に何らかの遺伝子変異が見つかったが、全ての間jで十分なctDNAが抽出できたわけではない。たとえば、膠芽腫の患者におけるctDNA抽出量は他に比べて少なかったが、これは血液脳関門があるために、脳腫瘍から循環血液中にctDNAが漏出しにくいためだろうと考えられている。

 ctDNAが極微量であっても遺伝子変異を検出するために、検査の感度を向上させる努力が続けられている。これにより、全ての進行期固形癌の検査感度を向上させるのみならず、より早期のがんを検出する技術への応用も可能となるだろう。