肺小細胞癌に対するRova-T療法

 小細胞癌に有望な薬はこのところ報告がなかったので、単独の記事として取り上げておきます。

 ちょっと前のThe ASCO postからです。

 肺癌領域では初めて(?)の抗体医薬−殺細胞性抗腫瘍薬複合体(昔はミサイル治療薬なんて呼称もありましたが)、小細胞癌領域では臨床応用されたものは皆無の抗体医薬、小細胞肺癌領域では初のバイオマーカーによる治療効果予測と、話題性はたくさん詰まったRova-Tですが、実地臨床に導入されるといいですね。

ASCO 2016:新規の抗体医薬−抗腫瘍薬複合体、Rova-Tは、初期開発段階では小細胞がん治療に有望そう

By The ASCO Post

Posted: 6/5/2016 2:05:37 PM

abst.# LBA8505

・抗体医薬−抗腫瘍薬複合体であるrovalpituzumab tesirine(Rova-T)は、抗DLL3抗体と殺細胞性抗腫瘍薬であるpyrolobenzodiazepine二量体からなり、DNAに障害を与える

・今回の第I相試験では、測定可能病変を有する患者のうち18%で主要が縮小し、68%でなんらかの臨床効果があった

・腫瘍内DLL3発現が最も顕著だった26人の患者群では、奏効割合は39%、生存期間中央値は5.8ヶ月、1年生存割合は32%だった

・今回の結果を受けて、さらに大規模な臨床試験が望まれる。

・ヒトに対して初めてRova-Tを用いた臨床試験の初期評価において、Rova-Tは再発小細胞肺癌患者に対して有望な結果を残した。Rova-Tは抗DLL-3抗体と強力な殺細胞性抗腫瘍薬の複合体だが、DLL-3を高発現している患者では89%で腫瘍の増大が抑えられ、39%で主要が縮小した

 

 今回の臨床試験を主導したMemorial Sloan Kettering Cancer CenterのRudin先生は、以下のように述べている。

 「近年、小細胞肺癌に対する治療上の進展はほとんどなく、それだけに今回のような報告は、たとえ初期の臨床試験結果だったとしてもとても勇気付けられる」

 「あくまで開発初期段階での報告に過ぎないが、Rova-Tは肺小細胞がんにおいて初めての、何らかの治療効果が示された分子標的治療であり、併せてDLL3発現状態が肺小細胞がんにおける初めての治療効果予測因子になりうることも示された」

 Rova−Tの抗体部分は殺細胞性抗腫瘍薬を腫瘍病巣・腫瘍細胞内に運び込むキャリアーの役割を担っている。

 肺小細胞患者のうち約2/3が腫瘍細胞表面にDLL3を高発現しており、一方で健常成人には本質的に発現していない。DLL3は小細胞がんのがん幹細胞を制御する分子として知られている。Rova−TはDLL3を標的分子とした初めての化合物である。

 今回の第I相試験では、少なくとも1レジメンの化学療法を受けた後に病勢進行に至った肺小細胞がん患者74人を対象とした。2/3の患者は初回診断時には進展型、残り1/3の患者は限局型だった。腫瘍組織検体が利用可能な場合には、腫瘍のDLL3発現状態を調べた。

 評価可能な60人の患者のうち、11人(18%)では腫瘍が縮小し、41人(68%)では何らかの臨床効果が得られた(少なくとも、腫瘍増大が治療開始前から20%以内の範囲にとどまった)。治療に反応したほぼ全ての患者で、腫瘍内のDLL3発現が亢進していた。

 DLL3発現が最も顕著だった患者群26人では、10人(39%)がRova-Tにより奏効し、生存期間中央値は5.8ヶ月、1年生存割合は32%だった。この患者群において、12人は三次治療としてRova-Tを使用したが、この12人ではとりわけ効果が高く、奏効割合は50%だった。

 頻度が高かった重篤な有害事象として、心嚢液貯留、胸水貯留、血小板減少、皮膚反応が見られた。これらはいずれも薬物療法により対応可能であるか、特段の治療をしなくても自然消退するかのどちらかだった。

 Rova-Tは更なる治療開発が望まれるが、少なくとも2レジメンの化学療法後に病勢が悪化したDLL-3陽性小細胞肺癌患者を対象にした単アーム第II相臨床試験が今年の前半に開始される予定である。その他のRova-T関連臨床試験としては、小細胞肺癌やその他のDLL高発現神経内分泌腫瘍で、Rova-Tを使用してその後の経過を見る試験が計画されている。