EGFR遺伝子変異による抗PD-1/PD-L1抗体の効果予測

 ドライバー遺伝子変異陽性の患者では、できるだけ免疫チェックポイント阻害薬の使用を後回しにしたい、という根拠のひとつを示す論文。

 抗PD-1/PD-L1抗体使用後にEGFR阻害薬やALK阻害薬を使用すると、間質性肺炎などの強い毒性が現れる可能性が高い、というのは、様々な情報ソースからの注意喚起があり、広く知られている。

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/d2016-05.html

https://www.haigan.gr.jp/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=118

https://www.opdivo.jp/contents/pdf/open/ip_hatsugen_egfr.pdf

 一方、今回の論文は、EGFR遺伝子変異陽性の患者には、抗PD-1/PD-L1抗体の効果自体があまり期待できないというもの。

 毒性が高まる一方で、効果が得られる見込みも少ない(more toxic, less effective)なら、使う意味はほとんどない。

 引用されている論文からの知見も併せて考えると、PD-L1発現状態よりも、EGFR遺伝子変異の有無の方が、より強力な効果予測因子のようだ。

 また、EGFR遺伝子変異の有無と、mutational burdenの多寡との間にも、負の相関関係がありそう。

 EGFR遺伝子変異陽性なら、他の免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子を検討する必要自体がないのでは?

Checkpoint Inhibitors in Metastatic EGFR-Mutated Non-Small Cell Lung Cancer - A Meta-Analysis

Lee et al., J Thorac Oncol 12(2), 403-407, 2017

・マウスモデルでは、抗PD-1抗体はEGFR遺伝子変異陽性肺癌に効果を示す一方で、KRAS遺伝子変異陽性肺癌には効果がなかったとする報告がある

→Akbay et al., Cancer Discov 3, 1355-1363, 2013

・抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体による治療を受けた進行非小細胞肺癌患者58人のレトロスペクティブ研究において、EGFR遺伝子変異もしくはALK融合遺伝子陽性の患者では奏効割合が4%しかなかった一方、それ以外の患者では23%だった

→Gainor et al., Clin Cancer Res 22, 4585-4593, 2016

・今回は、進行非小細胞肺癌の二次治療で、抗PD-1/PD-L1抗体とドセタキセルの効果を比較した下記の臨床試験に参加した患者を対象に、メタ解析を行った

●Checkmate 057試験(ニボルマブ vs ドセタキセル

→Borghaei et al., N Engl J Med 373, 1627-1639, 2015

Keynote 010試験(ペンブロリズマブ vs ドセタキセル

→Herbst et al., Lancet 387, 1540-1550, 2015

●POPLAR試験(アテゾリズマブ vs ドセタキセル

→Fehrenbacher et al., Lanet 387, 1837-1846, 2016

・対象者は1,903人(ニボルマブ292人、ペンブロリズマブ691人、アテゾリズマブ144人、ドセタキセル776人)

・EGFR遺伝子変異の有無がわかっていた患者が1,548人(81%)

・全体では、免疫チェックポイント阻害薬はドセタキセルに対して、死亡リスクを32%低減した(ハザード比0.68、95%信頼区間0.61-0.77、p<0.0001)

・同様に、EGFR遺伝子変異陰性の患者群(1,362人)では、免疫チェックポイント阻害薬はドセタキセルに対して、死亡リスクを34%低減した(ハザード比0.66、95%信頼区間0.58-0.76、p<0.0001)

・一方、EGFR遺伝子変異陽性の患者群(186人)では、生存期間延長に関する免疫チェックポイント阻害薬の優越性は認められなかった(ハザード比1.05、95%信頼区間0.70-1.55、p<0.81)

・EGFR遺伝子変異は、全生存期間に関する免疫チェックポイント阻害薬の負の効果予測因子として有用かもしれない

・PD-L1高発現(腫瘍細胞の50%以上がPD-L1を発現している)患者群にペンブロリズマブを使用した際、EGFR遺伝子変異陽性の患者では陰性の患者より全生存期間が短かった(生存期間中央値 6.5ヶ月 vs 15.7ヶ月)という報告がある

→Hui et al., J Clin Oncol 34(suppl), 9026, 2016

・PD-L1陽性細胞割合が50%以上の群と1%未満の群を比べると、EGFR遺伝子変異陽性の患者群では生存期間中央値に差は見られない(6.5ヶ月 vs 5.7ヶ月)が、EGFR遺伝子変異陰性群では15.7ヶ月 vs 9.1ヶ月と差が見られた)

・遺伝子変異総量(mutational burden)が免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子として有用とする報告があるが、EGFR遺伝子変異陽性腫瘍では、遺伝子変異総量は少ないらしい

→Spigel et al., J Clin Oncol 34(suppl), 9017, 2016