高額なニボルマブ、ついにNHKのクローズアップ現代で取り上げられました。

 今夜22時から、NHK総合クローズアップ現代で、がん治療における高額医療の問題が取り上げられました。

 いろいろな問題が取りざたされていましたが、肺癌診療に携わるものとして残念だったのは、ニボルマブが喫煙関連肺癌に有効だと言うことに誰も言及しなかったことです。

 出演者の中には数人、我が国の肺癌診療のオピニオンリーダーが含まれていて、当然誰かがこの話題に触れるだろうと思っていただけに、とても落胆しました。

 肺癌と食道癌を同時に発症した70代後半の患者さんが取り上げられていましたが、かなりの確率で重喫煙者だと思います。

 75歳以上には高額な薬を使うなとか、薬価を下げろとか、いろいろな案が出ているようですが、僕の案は

1)日本国内での喫煙を禁止するか

2)喫煙関連癌の医療費を補填できる程度にたばこ税を値上げして、増収分は全額医療財政にまわす

3)taspo利用者には専用の医療保険加入を義務付け、タバコ購入量に応じて保険料率を調整する

4)肺扁平上皮癌患者と喫煙歴のある非扁平上皮肺癌患者には、免疫チェックポイント阻害薬を自費扱いとする

 肺扁平上皮癌と肺小細胞癌の患者の95%は重喫煙者です

といったところです。

 喫煙関連の多段階発癌癌種にニボルマブは効きそうなので、何らかの形で受益者負担とするのが正解です。

 煙草をすって、癌になって、医療費負担を将来世代に押し付けるのはどう考えても納得いきません。

 大分県では、生活保護を受けている人がその月の需給があったら早速パチンコに行く、というのが問題になっていましたが、病院で診療していると、生活保護を受けながらタバコを吸い続けて、タバコに関連した病気にかかって、高額な治療薬を使いながら引き続きタバコを吸い続けている人がゴマンといます。

 敷地内禁煙を義務付けられている病院で、胸ポケットにタバコを入れて診察室に入ってきて、慢性閉塞性肺疾患の診療を受けて帰っていく人の神経が、僕には全く理解できません。

 だからといって診療拒否はしません(医師の応召義務があるのでできません)が。

 

 なにはともあれ、医療費のことを考える前に、タバコ行政のことを考えるべきです。

 もっとも、わが国の成人喫煙率は年々低下しているので、我々が今の時期をうまく乗り越えられれば、次世代ではこの問題はだいぶん解消されていることでしょう。

 

 うるさく書いてしまいましたが、以下は番組から。

・肺癌におけるニボルマブの薬価は、体重60kgの患者さんで1回133万円、毎月266万円、年間3458万円

・3458万円のうち、自己負担額はどれだけか?

→ハザマカンペイさんは1000万円くらいかな、とおっしゃっていましたが、実際は65万円くらい

→今回登場した70歳代後半の患者さんは、自己負担は月に12000円、年間14万4000円

→75歳以上の高齢者、1割負担で、高額療養費制度もつかったらこのくらい自己負担が抑えられて、のこりは全て国民負担

ニボルマブは22年の歳月をかけて開発された

・免疫チェックポイント阻害薬は、手術・放射線・抗がん薬に次ぐ第4のがん治療とすら言われている

・A先生は、自身の著書や財務省での審議会で医療財政破綻の警鐘を鳴らしている

・日本の年間薬剤費は8兆5000億円

・肺癌患者5万人がそれぞれ1年間ニボルマブを使用したとすると、1兆7500億円の上乗せとなる

・画像上、明らかな病勢進行に至っていても、pseudo-progressionかもしれないと思うと中止できない

・pseudo-progressionかどうかの判断は誰にも出来ない

・そもそも、durable responseという現象があるため、効いていたもずっと続ける意義があるのかどうかもよくわからない

・実際の奏効割合は20-30%程度で、決して万人に効く薬ではない

・今後もニボルマブ以外に、高額ながん治療薬の上市予定が目白押し

 オラパリブ 113万円 / 月

 ミファムルチド 1900万円 / 月

みんなの意見

A先生:75歳以上はもう寿命と考えて、高い治療は使わないことにする

B先生:薬の高い安いは関係ない、いい薬があれば患者さんに提供する

C先生:薬の高い、安いは国が決める問題

肺癌患者さん:国民皆保険制度を崩すのか?我々に死ねと言っているのか?がんになったら死ねと言うことか?

→喫煙者が肺癌になった場合、つらいけれど本当にその通りかもしれません。

視聴者から:5000を超えるコメント・質問があった

 薬は何でこんなに高いのか?薬価は下げられないのか?

日本製薬工業協会の重鎮:薬価を下げると製薬会社にとってマーケットとしての魅力が下がり、新しい薬にアクセスする機会が制限されることも起こりうる

D先生:化合物の中から、実際に薬まで育つのは2万−3万にひとつで、有効性を検証する大規模臨床試験を行うにはとてもお金がかかる

・薬がバカ売れしたら薬価が50%引き下げられる制度が導入された

・イギリスでは、費用対効果を参考に薬の使用に優先順位をつけている

・患者自己負担はほとんどなし

・費用対効果を参考にしたい

・28歳の女性、4歳の娘がいる、膵癌と診断され、アブラキサン(月30万円程度)の使用をしたかったが、英政府からは費用対効果の面で劣るため採用はされず、使えないと言うことになった。

 医療費負担を、喫煙歴が低く、これからさらに低くなるであろう将来世代に押し付けるのか。

 これまでにさんざん喫煙して癌になった人から徴収するのか。

 どちらがより倫理的なのでしょうか。