2月2日(木)、1日お休みをとって国立がん研究センター東病院に伺った。
どこに行くにしても、大分からだと時間がかかる。
当日のスケジュールを振り返ると、
午前5時:起床
午前5時40分:出発
午前5時55分:空港バス乗車
午前7時45分:大分空港発
午前9時過ぎ:羽田空港着
モノレール、山手線、つくばエクスプレス、タクシーを乗り継いで
午前11時過ぎ:国立がん研究センター東病院着
午前中:呼吸器内科、病理部へご挨拶、クライオプローブでの生検標本を顕微鏡で見学
午後:クライオプローブ生検2件を含め、計6件の気管支鏡検査を見学
午後4時7分:空港バス乗車、国立がん研究センター東病院発
午後5時過ぎ:羽田空港着
午後7時55分:羽田空港発
午後9時30分ごろ:大分空港着
午後11時前:空港バス下車
午後11時:帰宅
18時間のうち、実際に施設見学できたのは正味4時間30分程度だった。
すこぶる効率が悪い。
でも、行ってよかった。
まず、検査前の噴霧麻酔では、一般的なジャクソン式噴霧器を使わない。
耳鼻科診察室にあるようなキャビネットが、噴霧麻酔専用のスペースに設置されている。
これは贅沢な環境だ。
この環境があるがために、検査の回転が速い。
他の検査が進行している間に、担当医がここで噴霧麻酔をしている。
検査終了後直ちに入れ替わり、次の検査に入ることができる。
3時間足らずで6件の検査をこなしていたが、これは大分大学病院の2倍速だ。
また、透視機器として、C-arm透視装置が設置されている。
東病院を離れてみると、C-arm透視装置が気管支内視鏡検査室に置かれていることの贅沢さがよく分かる。
患者の体位変換をしなくても、斜視撮影ができるのは大きなメリットだ。
モニターにも工夫が凝らされている。
検査術者を取り囲むように、多数のモニターが配されている。
術者は気管支鏡の挿入部位によって右を向いたり左を向いたりしなければならないが、どっちを向いても必要な画像が見ることができる。
そして、部屋の左奥に-80℃で凍結保存可能なフリーザーが設置されていることも忘れてはならない。
核酸や蛋白解析のために、検体採取後ただちに凍結保存ができる環境が整っている。
検査中迅速細胞診を行う体制も整っている。
ただし、現段階では細胞診検査技師ではなく、検査医が判定している。
専属の細胞診検査技師や顕微鏡の確保には苦労しているようだった。
気管支鏡保管用のキャビネットを見ると、なんと処置用の1T-Q290が3本も常備されている!
通常、処置用気管支鏡はこんなにたくさん置いてない。
太径のガイドシースを使用するにはなくてはならない気管支鏡だが、まさかこんなにおいてあるとは。
クライオプローブを使用する際にもよく使うらしい。
たくさん置いてあると言えば、EBUS用のプローブもたくさん置いてあった。
4本ぶら下げる場所がある。
「細」「太」と仕分けてあるのは、多分「細径ガイドシース用」と「太径ガイドシース用」ということだろう。
そして今回の主役、クライオプローブ一式。
炭酸ガスボンベ2本がくっついた本体と、そこから延びるプローブ。
よほど高額な設備かと思ったが、予定されている価格を聞いてみるとそれほどでもなかった。
それほどでもないと言えるほど安くもないが、少なくともEBUS-TBNAを導入するよりは安いらしい。
ただし、EBUS-TBNAとは異なり、クライオプローブを導入したからといって病院の収入が増えるわけではないので、単純な比較はできない。
当日の検査の内訳は、EBUS-TBNA3件、可視範囲の通常鉗子生検1件、可視範囲のクライオプローブ生検1件、透視下のクライオプローブ生検1件の計6件だった。
EBUS-TBNA3件の方も興味深かった。
様々な穿刺針が準備されており、オリンパス社製の針しか使ったことのない私にとっては新鮮だった。
25Gの針も準備されていて、かなり穿刺しやすいとのことだ。
クライオプローブ生検の詳細は臨床試験の真っ最中なので控えるが、前評判通りの実力だった。
とにかく取れる組織が大きい。
通常の生検組織の大きさをゴマ粒程度とすれば、クライオプローブ生検標本は大豆程度といったところか。
顕微鏡で観察すると、組織構築がきれいに保たれているのが印象的だった。
しかし、安直な気持ちでは取り組んではならない手技であることも、よく分かった。
まず、クライオプローブ生検は、全例気管内挿管をされたうえで行われている。
生検した際、プローブを気管支鏡ごといったん患者から抜き取らないと検体が採取できないが、途中で声門に引っかかって検体が落っこちてしまうことがしばしばあるそうだ(実際、この日も2回落っこちていた)。
それを少しでも予防するために、気管内挿管をしているらしい。
また、プローブと気管支鏡を抜き取っている間は、当たり前だが止血処置ができない。
したがって、標本採取部位が出血していたら、もたもたしていると気管内が血の海になってしまう。
術者には、素早く気管支鏡を抜き去って速やかに挿入し、盲目的にでも出血部位まで気管支鏡を持っていく技量が必要だ。
気管支鏡検査時の止血処置がきちんとできる医師でなければ、手を出すべきではない。
また、クライオプローブの剛性のために、肺尖部やS6の生検はなかなか難しそうだ。
こちらも、気管支鏡とプローブの特性を理解した上で工夫しなければならない。
プローブ挿入・止血処置の両面から、両肺尖部のクライオプローブ生検は、術者にかなりの技量を要求する。
百聞は一見に如かずだった。
ごく近い将来、国内のどの施設でもクライオプローブが使えるようになりそうだが、臨床導入前にぜひ一度見学しておくことをお勧めする。
予想以上に有用なデバイスであるとともに、知らずに手を出すと痛い目に合いそうだ。