第I世代EGFR阻害薬のメタ解析

 世界に先駆けてgefitinibが我が国の臨床現場に持ち込まれたのが2002年。

 あと半年で、15周年を迎える。

 薬剤性間質性肺炎の問題、特定の遺伝子異常が効果予測因子となる、耐性化とその克服戦略など、EGFR阻害薬はいろいろな意味で肺がん診療を大きく回天した。

 もうそろそろかな、と思っていたら、EGFR遺伝子変異陽性患者に対するEGFR阻害薬のメタ解析が報告された。

 あやふやなままになっていた第I世代EGFR阻害薬単剤治療にまつわる疑問に一定の回答が示されている。

 FLAURA試験の結果いかんでは陳腐化してしまう知見かもしれないが、少なくとも現時点では知っておきたい知識である。

 EGFR阻害薬と化学療法は(そしておそらくは、手術や放射線治療といった治療手段も)、全てを使い切ってこそ最大限の生存期間延長効果が得られるのだということを、医療者は肝に銘じておく必要がある。

 EGFR遺伝子変異が陽性だからといって、一連の治療過程において化学療法を考えなくていい、ということにはならない。

 clinical PDとなるまでEGFR阻害薬の治療を引き伸ばすという治療戦略に異を唱えるつもりはないが、RECIST PDを迎えた段階で、化学療法への治療の切り替えのタイミングを測り間違えないようにしたい。

 臨床試験で全生存期間の延長が確認されないのは、もはややむを得ない。

 むしろ、無増悪生存期間が大きく延長して、全生存期間が延長しないという現象は、適切にクロスオーバーが成された、倫理的に適切なデザインの臨床試験結果として前向きに捉えるべきなのかもしれない。

 大切なことは、得られた全生存期間解析結果をヒストリカル・コントロールと比較することである。

 第I世代EGFR阻害薬に関して言えば、それまでは薬物療法により約15ヶ月(FACS studyにおけるCDDP+GEM群の生存期間中央値)までしか伸ばせなかった全生存期間が、26−27ヶ月まで伸ばされたという事実が大切なのだ。

 新しい薬で無増悪生存期間が大きく延長した場合、仮に臨床試験本体で全生存期間延長が示されなかったとしても、実地臨床における患者の生命予後が改善するのはほぼ間違いない。

 近々別項で取り上げようと思っているが、本論文執筆者のLee先生、共著者のTony Mok先生、James Yang先生は連名で、免疫チェックポイント阻害薬とEGFR遺伝子変異陽性患者の関係についても興味深いメタ解析をまとめられている。

Gefitinib or Erlotinib vs Chemotherapy for EGFR Mutation-Positive Lung Caner: Individual Patients Data Meta-Analysis of Overall Survival

Lee CK et al., J Natl Cancer Inst 109(6), 2017

・EGFR遺伝子変異を有する進行・再発非小細胞肺癌患者を対象に、初回治療としてのEGFR阻害薬と化学療法の有効性を比較した全てのランダム化比較試験で、全生存期間は重要な副次評価項目となっている

統計学的に有意な無増悪生存期間延長が確認されたにもかかわらず、過去のどの試験においても、全生存期間の延長は示されなかった

・無増悪生存期間に差があるにもかかわらず全生存期間に差が出ないというこのパラドックスは、病勢進行後の後治療によるところが大きいとされている

・第2世代のEGFR阻害薬であるafatinibを扱ったLUX-Lung 3試験およびLUX-Lung 6試験では、それぞれ化学療法に対して46%、36%の死亡リスク低減効果が確認された

・一方で、Exon 21 L858R変異を有する患者に限れば、全生存期間の延長効果は示されなかった

・第1世代のEGFR阻害薬において、こうしたEGFR変異タイプ別の効果差があるのかどうかは結論が出ていなかった

・今回のメタ解析では、第1世代のEGFR阻害薬であるgefitnibもしくはerlotinibが化学療法に対して全生存期間の延長効果を示すかどうか検証することを主目的とした

・副次的な評価として、EGFR遺伝子変異タイプやその他の背景因子が、EGFR阻害薬による生存期間延長の予測因子となるかどうかを検証することにした。

・対象とした臨床試験は次の6つ

 ●IPASS試験(gefitinib vs CBDCA+PTX, EGFR変異陰性例も含む)

 ●NEJ002試験(gefitinib vs CBDCA+PTX, Ex.19 / 21以外の変異も含む)

 ●WJTOG3405試験(gefitinib vs CDDP+DOC, 術後再発患者、PS2の患者を含む)

 ●OPTIMAL試験(erlotinib vs CDDP+GEM)

 ●EURTAC試験(erlotinib vs CDDP/CBDCA+GEM/DOC, 非アジア人)

 ●ENSURE試験(erlotinib vs CDDP+GEM)

・これらの臨床試験に参加した患者のうち、Ex.19とEx.21の遺伝子変異を有するもののみを対象に、個別患者データを収集して解析した

・サブグループ解析を行うにあたり、年齢(65歳未満か65歳以上か)、性別(男性か女性か)、人種(アジア人か非アジア人か)、喫煙歴(非喫煙者か喫煙経験者か)、PS(0-1か2か)、組織型(腺癌かそれ以外か)、EGFR遺伝子変異(Ex.19かEx.21か)を検討項目とした

・1,231人の患者が対象となった

・Ex.19変異が682人、Ex.21変異が540人、Ex.19とEx.21両変異掛け持ちが9人だった

・初回治療として、632人(51.3%)がgefitinibまたはerlotinibを使用し、599人(48.7%)が化学療法を行った

・化学療法のコース数上限は3−6コースと規定されていた

・観察期間中央値は35ヶ月だった(四分位は15-32ヶ月)

・1,231人のうち、解析時点までに780人(63.4%)が死亡していた(EGFR阻害薬群:65.4%、化学療法群:61.3%)

・全生存期間はEGFR阻害薬群と化学療法群で有意差がなかった

 EGFR阻害薬群:25.8ヶ月、95%信頼区間は23.8-27.5ヶ月

 化学療法群:26.0ヶ月、95%信頼区間は23.6-28.9ヶ月

 ハザード比1.01、95%信頼区間は0.88-1.17、p=0.84

・EGFR変異タイプ別の解析でも全生存期間に有意差はなかった(とはいえ、EGFR阻害薬群同士では、3ヶ月もの差が見られている)

 Ex.19変異

  EGFR阻害薬群:27.4ヶ月、95%信頼区間は25.1-29.3ヶ月

  化学療法群:25.9ヶ月、95%信頼区間は23.2-29.5ヶ月

  ハザード比0.96、95%信頼区間は0.79-1.16、p=0.68

 Ex.21変異

  EGFR阻害薬群:24.1ヶ月、95%信頼区間は21.6-26.8ヶ月

  化学療法群:25.9ヶ月、95%信頼区間は22.5-29.6ヶ月

  ハザード比1.06、95%信頼区間は0.86-1.32、p=0.59

・無増悪生存期間の解析は1,227人でしかできず、そのうち1,004人(81.8%)で解析時点までに病勢進行が確認された(EGFR阻害薬群:78.0%、化学療法群:85.7%)

・EGFR阻害薬群では、有意に無増悪生存期間が延長した

 EGFR阻害薬群:11.0ヶ月、95%信頼区間は9.9-11.8ヶ月

 化学療法群:5.6ヶ月、95%信頼区間は5.4-5.8ヶ月

 ハザード比0.37、95%信頼区間は0.32-0.42、p<0.001

・EGFR変異タイプ別の解析では、

 Ex.19

  ハザード比は0.28、95%信頼区間は0.23-0.34、p<0.001

 Ex.21

  ハザード比は0.49、95%信頼区間は0.40-0.60、p<0.001

・化学療法に比べると、EGFR阻害薬は42.9%の無増悪生存期間延長効果があった

・病勢進行後、後治療を行ったのは化学療法群のうち377人(73.8%)、EGFR阻害薬群のうち325人(65.9%)だった

・Ex.19群では、化学療法後に病勢進行しEGFR阻害薬による後治療を行ったのは207人(71.1%)、EGFR阻害薬後に病勢進行し化学療法による後治療を行ったのは165人(64.0%)だった

・Ex.21群では、化学療法後に病勢進行しEGFR阻害薬による後治療を行ったのは166人(77.2%)、EGFR阻害薬後に病勢進行し化学療法による後治療を行ったのは157人(67.7%)だった

・後治療をしなかった患者は、EGFR阻害薬群の方が化学療法群より多かった(9.1% vs 0.6%)

・病勢進行後の生存期間は、EGFR阻害薬群の方が化学療法群より短かった

 EGFR阻害薬群:生存期間12.8ヶ月、95%信頼区間は11.4-14.3ヶ月

 化学療法群:生存期間19.8ヶ月、95%信頼区間は17.6-21.7ヶ月

・病勢進行後、二次治療あるいはそれ以降の治療としてEGFR阻害薬を使用した患者では、それ以外の治療を受けた患者よりも生存期間が長かった

 EGFR阻害薬を使用した患者:生存期間21.5ヶ月、95%信頼区間は19.1-24.9ヶ月

 化学療法を受けた患者:生存期間15.9ヶ月、95%信頼区間は14.2-17.5ヶ月

 無治療経過観察された患者:生存期間4.1ヶ月、95%信頼区間は3.0-5.9ヶ月

 その他/詳細不明の治療を受けた患者:生存期間4.9ヶ月、95%信頼区間は3.5-5.8ヶ月

・治療前の段階でPS不良だった患者、臨床病期IV期だった患者は有意に生存期間が短かった

・65歳以上の患者は、多変数解析の結果、病勢進行のリスクが23.0%低いことがわかったが、全生存期間に有意な差はなかった

・EGFR阻害薬による治療は、化学療法に比べて63.0%の病勢進行リスク抑制効果があった

・過去の検討では、EGFR遺伝子変異陽性患者に対するEGFR阻害薬の増悪抑制効果を化学療法と比較すると、それが初回治療であろうが(無増悪生存期間に関するハザード比0.43、95%信頼区間0.38-0.49)、二次治療以降であろうが(無増悪生存期間に関するハザード比0.34、95%信頼区間0.20-0.60)あまり変わりはなかった

→Lee et al., J Natl Cancer Inst 105(9), 595-605, 2013

・gefitinibの臨床導入前と後でEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺癌患者の治療成績を比較した国立がんセンター中央病院の検討では、全生存期間は導入前が13.6ヶ月、導入後が27.2ヶ月とほぼ倍増していた

→Takano et al., J Clin Oncol 26(34), 5589-5595, 2008

・奇しくも、この27.2ヶ月という期間は、今回の検討で導かれた25.9ヶ月と同等だった