gefitinib術後補助療法 ADJUVANT / CTONG1104 study

 肺癌完全切除後の再発率を下げるための術後補助化学療法。

 これまでにも何度か取り扱った。

 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e359226.html

 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e601159.html

 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e599868.html

 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e854713.html

 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e820228.html

 ASCO 2017において、中国から術後gefitinib補助療法に関する発表があった。

 関連する過去の記事を以下に記載する。

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/d2016-01-05.html

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/d2014-07-07.html

 有望な結果だと思っていたのだが、識者から寄せられたコストに関するコメントを見てちょっと驚いた。

 413倍のコスト・・・。

 確かに、全生存期間がどの程度延長されるのかを確認してからでないと、実臨床には持ち込めない。

 コスト、コスト、コスト、だ。

 こうなると、社会的な見地からすれば、この治療による社会へのコスト増と、この治療で長期延命した患者さんがどの程度社会へベネフィットを供せるのかを比較検討するのも必要だろう。

 そして、我が国では同様のコンセプトでWJOG6410L-IMPACT studyが患者追跡期間中である。

 私が個人的に尊敬する先生の肝煎りの試験でもあるし、日本人として、本試験の結果を待って実地臨床に活かしたい。

Adjuvant Gefitinib May Extend DFS in NSCLC With EGFR-Activating Mutations

June 5, 2017

 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるgefitinibは、EGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺がん患者への術後補助療法として、シスプラチン+ビノレルビン併用療法と比較して無病生存期間を延長することが、無作為化第III相臨床試験であるADJUVANT trial(CTONG 1104)の結果としてASCO 2017, abst.# 8500で報告された。

 本試験では、完全切除されたII期からIIIA期(N1-N2)のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者を対象に、無作為にgefitinib群(111人)とシスプラチン+ビノレルビン併用群(111人)に無作為割付した。

 intent-to-treat解析において、無病生存期間はgefitinib群で有意に延長していた(無病生存期間中央値はgefitinib群で28.7ヶ月、シスプラチン+ビノレルビン群で18.0ヶ月、ハザード比は0.60、95%信頼区間は0.42-0.87、p=0.005)。3年無病生存割合はそれぞれ34%と27%だった。性別、喫煙状態、EGFR遺伝子変異型、リンパ節転移範囲、組織型といったサブグループ解析を行っても、全体の傾向と同様にgefitinib群で優れる傾向だった。

 全生存期間のデータは未確定だが、複数のエキスパートは全生存期間こそが重要なエンドポイントだと主張している。

 「無病生存期間の生存曲線は、3年経過後は曲線が重なり始めたように見えており、生存期間の後半でどんなことが起こっているのか明らかにするのが重要だ」

とのことだ。

 もうひとつ議論の的になる点は、シスプラチン+ビノレルビン併用療法群において治療を拒否する患者が多かったことだ。シスプラチン+ビノレルビン群で23人(21%)がプロトコール治療を拒否したが、gefitinib群では5人(5%)程度だった。シスプラチン+ビノレルビン群に割り付けられ、プロトコール治療を拒否した患者もintent-to-treat解析には含まれており、結果に影響している可能性がある。実治療群間の解析は今回報告されなかった。

 gefitinib群はシスプラチン+ビノレルビン群に比べて有害事象も軽微だった。好中球減少、貧血、白血球減少、骨髄抑制、嘔気、嘔吐、食欲不振の点において、gefitinib群の方が頻度が少なかった。一方で、gefitinib群の方が皮疹、肝機能障害、下痢の頻度が高く、ごく一部に重症の患者もいた。Grade 3以上の有害事象はgefitinib群の12%に、シスプラチン+ビノレルビン群の48%に認めた。gefitinib群では、シスプラチン+ビノレルビン群と比較して健康関連QoLが有意に改善していた。

 今回の発表者は、sEGFRm陽性の術後非小細胞肺癌患者に対する術後gefitinib補助療法は術後再発の時期を遅らせ、N1領域もしくはN2領域にリンパ節転移のあった完全切除後sEGFRm陽性非小細胞肺癌患者に対して優先されてよい治療だ、と結論している。

 識者からは、以下のようなコメントが寄せられた。

・比較的進行度の高い完全切除後非小細胞肺癌患者に対して、術後補助化学療法はいまもって標準治療だが、その生存期間延長効果はそこそこでしかない

・そのうえ、術後補助化学療法の恩恵が期待できる患者を実地臨床で選択するために有効なバイオマーカーは(ERCC1等の報告はあるものの)、いまのところ見つかっていない

・そうした点を踏まえると、今回の結果はとても興味深い

・同様の検討としては、BR19試験やRADIANT試験が既に報告されているが、術後補助療法としてのEGFR-TKI療法には限られた効果しかなかった。

・RADIANT試験では、sEGFRm陽性患者を対象としたサブセット解析で、erlotinibはプラセボに対して有意に優れていた

・術後補助療法としてのコストを考えたとき、シスプラチン+ビノレルビン併用療法では447ドル、gefitinib療法では184,879ドルかかる

・実治療群間毎の生存期間延長効果とコストを総合的に見て、術後gefitinib補助療法が本当に意義のある治療なのか考えねばならない