ROS1検査受託開始

 新たにCrizotinibの治療対象となったROS1肺癌を見出すための検査ができるようになった。  6月16日から受付を開始したとのこと。  先週経気管支肺生検を行って診断がついた患者で、早速提出することにした。    院内に凍結保存していたブラシ細胞診洗浄液をEGFR、ROS1用として提出することにした。  こうすることで、計算上は全てのマーカーを調べるために21枚の未染プレパラートが必要なところを、11枚まで節約することができる。  関連した内容を、5月に開催した講演会のスライドから転載する。  今回の患者は分化が特定しがたい病理像だったらしい。  TTF-1やNapsin-A、p40など、計7種類の追加免疫染色をしてよいかどうかという問い合わせがあったため、そのためにALKやPD-L1の評価ができなくなってはたまらないと回答し、ALK、PD-L1用のプレパラート確保を優先してもらうことにした。  その為の免疫染色と、ALK、PD-L1用の検体を確保すると、パラフィンブロックをほぼ使い切ってしまい、EGFRやROS1に回せる分は残らなかった。  ブラシ細胞診洗浄液を保管しておいて正解だった。  診断実務上、こうしておいた方がいいだろうという流れを書き残す。  診断過程において、密接に病理部門と連絡を取り合うことが何より肝要だ。 ・経気管支肺生検時に、組織生検は通常鉗子でなるべく多く(10個が目標)、ブラシ細胞診をしてブラシ洗浄液を一部院内に保存し(最低でも2ml×2本)、できれば責任気管支での気管支洗浄液も採取しておく ・ブラシ洗浄液は、遠心分離して、ペレットを凍結保存する必要がある →ブラシ洗浄液をそのまま凍結しておいて提出したら、「RNAが壊れてうまくPCRにかからない可能性があるから、次回からはペレットにして提出してください」とコメントされた →実際には、ブラシ洗浄液からペレットを作成しても、ほとんど残らないかも。 ・経気管支肺生検が終わった段階で、患者・家族に以下のように説明しておく。  「肺癌の診断がついた場合には治療法を選ぶために詳しい検査を行いますが、その際には保険点数として169,200円の検査を行う予定です。そのため、外来結果説明時の窓口請求が、検査代だけで1割負担なら16,920円、3割負担で50,760円と高額になります。予めご了承ください。なお、検査結果説明後にこれら検査をするか否かを話し合ってもよいですが、その場合には治療開始が1−4週間程度遅れる可能性があります」 ・洗浄液中に腫瘍細胞が確認されたら、そちらからEGFR, ROS1検索を提出する ・組織診断がついた場合、扁平上皮癌であればPD-L1用の未染標本を作製してもらう ・組織診断がついた場合、非扁平上皮癌であればALK、PD-L1用の未染標本を作製してもらい、洗浄液中に腫瘍細胞が確認されなかった場合にはEGFR、ROS1用の未染標本も追加で作成してもらう ・組織診断がついた場合、非小細胞肺癌、分化不明であれば、ALK、PD-L1、さらに洗浄液中に腫瘍細胞が確認されなかった場合にはEGFR、ROS1用の未染標本を優先的に作製してもらい、その後余地があれば組織型を調べるための免疫染色をしてもらう ・検体不足で全ての予測因子を検索できない場合、頻度の高いものから調べる ・EGFRは優先されるべきだが、ALK、ROS1、PD-L1のどれを優先するかは年齢・性別・喫煙歴・病理像・臨床経過などの患者背景因子で判断する  初回診断時の効果予測因子検索のために、実費として169,200円の高額をかけるのがどうかという議論もあるかも知れないが、陽性となったときの治療選択に与えるインパクトや、その後の治療費節約、患者の生命予後の改善を考えると、かえって初期投資を手厚くした方が効率がいいように感じる。  少なくとも、効果予測因子検索もせずに年間10,000,000円単位のお金を使うよりは、よほど理に適っている。