Durvalumabと局所進行非小細胞肺癌

 摂食嚥下機能評価の解析作業に追われて、すっかり本ブログがおろそかになってしまった。  以前一緒に働いた先生から、放射線化学療法について相談を受けて、ちょうどトピックスだったから久しぶりに記事を書くことにした。  2017年7月末に、以下のような記事を引き合いに出そうと思って、すっかり忘れていた。  今回の欧州臨床腫瘍学会で報告され、同時にNew England Journal of Medicineに掲載されていたので、併せて取り上げる。  EGFR遺伝子変異陽性患者を除いては、検討されたほぼ全てのサブグループで、Durvalumab投与群が無増悪生存期間に有意な延長が見られていた様子。  PD-L1の発現状態によらない、というのは、いい方に考えれば汎用性が高い、と捉えることができる。  じゃあ、NivolumabやPembrolizumab、Atezolizumabでも・・・と考えてしまう。 FDA Grants Durvalumab Breakthrough Therapy Designation for Patients With Locally Advanced Unresectable NSCLC By The ASCO Post Posted: 7/31/2017 11:06:36 AM Last Updated: 7/31/2017 11:06:36 AM  2017年7月31日、AstraZeneca社とMedImmune社(AstraZeneka社の生物学的研究及び治療開発部門を担当する子会社)は、米国食品医薬品局がDurvalumabを「プラチナ併用放射線化学療法後に病勢進行に至っていない、切除不能局所進行非小細胞肺癌患者」へのBreakthrough Therapyに指定したと発表した。  Breakthrough Therapy指定は、 新規薬剤の開発促進、適応再検討を目的としている。臨床的に意義があるとされる評価項目において、早期段階の臨床試験であっても既存治療に対して有望な結果が得られており、診療上の必要性が高い場合に検討される。今回のDurvalumabの指定は、第III相PACIFIC試験の中間解析結果に基づいている。PACIFIC試験は、無作為化、二重盲検、プラセボ対照の多施設共同臨床試験である。切除不能の局所進行非小細胞肺癌で、標準的な放射線化学療法施行後に病勢進行に至っていない患者を対象に、逐次療法としてのDurvalumabの有用性を検証している。 Durvalumab after Chemoradiotherapy in Stage III Non?Small-Cell Lung Cancer Scott J. Antonia, et al., N Engl J Med. 2017 Sep 8. doi: 10.1056/NEJMoa1709937. [Epub ahead of print ] 背景:  切除不能局所進行非小細胞肺癌患者は、標準的な放射線化学療法を受けてもほとんどが病勢進行に至る。今回の第III相試験では、こうした患者で、プラチナ併用放射線化学療法後を2コース以上行った後にまだ病勢進行に至っていないものを対象として、PD-L1抗体であるDurvalumabを放射線化学療法後の地固め療法として行うことの意義をプラセボ対照で検討した。 方法:  先行する化学放射線療法を行った後、病勢進行を認めなかった患者を対象に、2:1でDurvalumab群とプラセボ群に割り付けた。腫瘍のPD-L1発現状態は、適格基準や割付調整因子には含まなかった。Durvalumabは体重1kgあたり10mgを経静脈投与し、これを2週ごとに、最大12ヶ月反復投与した。プロトコール治療は放射線化学療法終了後1-42日目の間で開始した(当初は1-14日目と規定されていたが、後にプロトコール改定により期間が延長された)。プロトコール治療開始後、12ヶ月経過時点で病勢コントロールが得られており、その後の経過観察期間中に増悪を認めた場合、プロトコール治療を再開できることになっていた。主要評価項目はプロトコール治療開始後の無増悪生存期間及び全生存期間とした。無増悪生存期間はハザード比0.67の差を95%の検出力で検出するために458イベントを、全生存期間はハザード比0.73の差を85%の検出力で検出するために491イベントを必要とした。それぞれ、両側検定で有意水準を0.025に設定した。副次評価項目は12ヶ月無増悪生存割合、18ヶ月無増悪生存割合、奏功割合、奏効持続期間、無転移生存割合、安全性などとした。 結果:  713人の患者がランダム割付され、709人(Durvalumab群473人、プラセボ群236人)がプロトコール治療を受けた。全体の年齢中央値は64歳、全体の70.1%が男性で、喫煙継続中もしくは過去に喫煙歴のある患者が全体の91.0%を占めていた。扁平上皮癌が全体の45.7%を占めていた。化学放射線療法に先行して導入化学療法を受けていた患者が、Duevalumab群に25.8%、プラセボ群に28.7%含まれていた。化学放射線療法の治療効果は、Durvalumab群では完全奏効が1.9%、部分奏効が48.7%、プラセボ群では完全奏効が3.0%、部分奏効が46.8%だった。腫瘍組織標本でPD-L1発現が確認でき、TPS≧25%だった患者は、Durvalumab群で24.2%、プラセボ群で18.6%で、TPS<25%だった患者は、Durvalumab群で39.3%、プラセボ群で44.3%だった。全体の36.7%では、TPS不明だった。EGFR遺伝子変異はDurvalumab群の6.1%、プラセボ群の5.9%で陽性で、同様に66.2%、69.6%では陰性、27.7%、24.5%で不明だった。Durvalumab群の治療回数中央値は20回(1-27)、プラセボ群の治療回数中央値は14回(1-26)だった。これら背景因子は、おしなべて両群で偏りなく調整されていた。  無増悪生存期間中央値はDurvalumab群で16.8ヶ月(95%信頼区間は13.0ヶ月から18.1ヶ月)、プラセボ群で5.6ヶ月(95%信頼区間は4.6ヶ月から7.8ヶ月)で、ハザード比は0.52、95%信頼区間は0.42-0.65、p<0.001)だった。12ヶ月無増悪生存割合はそれぞれ55.9%(51.0-60.4)と35.3%(29.0-41.7)、18ヶ月無増悪生存割合はそれぞれ44.2%(37.7-50.5)と27.0%(19.9-34.5)だった。奏効割合はそれぞれ28.4%と16.0%で、p<0.001と有意差を認めた。12ヶ月時点での奏効持続割合はDurvalumab群で72.8%、プラセボ群で56.1%、18ヶ月時点での奏効持続割合はそれぞれ72.8%と46.8%で、Durvalumab群では腫瘍が縮小した状態が長期間維持される傾向が見られた。無遠隔転移生存期間中央値はそれぞれ23.2ヶ月(23.2-未到達)と14.6ヶ月(10.6-18.6)で、ハザード比は0.52(0.39-0.69)、p<0.001と有意差を認めた。さらには、新規病巣の出現頻度はDurvalumab群で20.4%、プラセボ群で32.1%、新規脳転移の出現頻度はDurvalumab群で5.5%、プラセボ群で11.0%だった。Grade 3/4の有害事象はDurvalumab群で29.9%、プラセボ群で26.1%に認めた。  有害事象のために、Durvalumab群の15.4%、プラセボ群の9.8%がプロトコール治療を中止した。プロトコール治療中止にいたる原因として最も多かったのは肺臓炎もしくは放射線肺臓炎で、それぞれ6.3%、4.3%に認めた。肺臓炎もしくは放射線肺臓炎は、全グレードではDurvalumab群の33.9%、プラセボ群の24.8%に認め、そのうちGrade 3/4は3.4%、2.6%だった。全グレードの肺炎はそれぞれ13.1%と7.7%、Grade 3/4は4.4%、3.8%だった。治療関連死は、Durvalumab群の4.4%に、プラセボ群の5.6%に認めた。 結論:  PD-L1発現状態によらず、Durvalumabはプラセボ群に比して、約11ヶ月と有意に無増悪生存期間を延長した。各副次評価項目においてもおおむねDurvalumabで良好な傾向にあり、安全性の面ではプラセボと同様だった。