高頻度マイクロサテライト不安定性(MSH-High)を有するがんとペンブロリズマブ
2019年初めての日記は、この話題から始めようと決めていた。
肺がん診療にとってというより、がん診療全体にとって記念碑的な側面があるからだ。
ペンブロリズマブは既に非小細胞肺癌で使用可能となっているが、今回新たに、以下の病態で使用可能になった。
「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る」
・・・。
長すぎて分かりにくい。
端的に言えば、
「DNA上に多数存在するマイクロサテライトという部位にたくさん異常がある(MSI-High)癌の患者さんでは、標準治療がすでに終わった後、もしくは何かの理由で標準治療ができない場合はペンブロリズマブを使っていいですよ」
ということだ。
各癌腫におけるMSI-Highとなる患者の割合は、既に論文で公表されているらしい。
5%以上の発現割合を示すものを見ると、
「子宮内膜癌」
「胃腺癌」
「小腸癌」
「結腸・直腸癌」
あたりが挙がってくる。
子宮内膜癌の6人に1人がMSI-Highで、ペンブロリズマブの治療対象になるなんて、あまり知られていないのではないだろうか。
今回の適応追加承認、直腸・結腸がん以外の癌においては、KEYNOTE-158試験が根拠となっている。
MSI-Highであれば、癌腫を問わず参加できる第II相試験で、いわゆるバスケット試験だ。
参加した患者は全部で94人、対象となった患者の癌は本当にバラバラ。
子宮内膜癌、胃癌、小腸癌、膵癌、胆道癌でおよそ4分の3を占めている。
肺癌領域では、小細胞癌が3人含まれている。
奏功割合は37.2%。
すでに標準治療をやりつくした患者集団で、はっきりした腫瘍縮小を来しにくい免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験と考えれば、良い結果ではないだろうか。
わずか3人ながら、小細胞癌での成績は奏効割合66.7%である。
虹色のwater-fall plot。
色が多すぎてなんだかよくわからない。
無増悪生存期間中央値は5.4ヶ月、1年無増悪生存割合は37.7%。
全生存期間中央値は13.4ヶ月、1年生存割合は55.7%。
日本人は94人中7人含まれているものの、肺癌は含まれておらず。
肺癌領域におけるこの適応追加承認のインパクトはといえば、小細胞肺癌の患者でもキイトルーダを使うことができる道が、わずかながら開かれたということではないだろうか。
しかし、小細胞肺癌におけるMSI-High患者の割合は、概ね1%。
実臨床で言えば、ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌を見つけるのに近い感覚。
これまでのところ、私の実臨床の経験では、ROS1融合遺伝子陽性肺癌患者さんはまだ1人しか見たことがない。
今回の適応追加承認を利用して、MSI-High肺がんのスクリーニング体制と医師主導臨床試験を構築して、日本人におけるMSI-High肺がんの治療戦略を練るのがあるべき姿ではないだろうか。
グローバルなバスケット型第II相臨床試験をテコにして、市販後臨床試験として薬効を検証できる機会を与えられたと捉えるべきで、それがバスケット試験の本質なのだろう。
最後に、MSI検査に関する資料を並べておく。
実質的にEGFR遺伝子変異検査とやることは同じだが、非小細胞肺癌でMSI検査を追加で行うメリットは乏しいだろう。
陽性となる確率は低いものの、小細胞癌では積極的に行うべきだ。