気持ちの整理

 どうも筆が進まない。

 私事で忙しいせいもある。

 

 書くべき話題はたくさんある。

・EGFR遺伝子変異陽性肺がんの患者、初回治療は本当にオシメルチニブ一択でいいのか?

とか

・市販後調査で、ペンブロリズマブ使用後の患者に結構な頻度で薬剤性肺障害が出ているみたいだぞ

とか

・PS 1.5、進行扁平上皮がん、TPS 75%、姑息的肺門部放射線照射後に他部位の原発巣にabscopal effectが見られた患者にペンブロリズマブを入れてみた

とか、きりがない。

 だけど、先日天国に旅立った、自分よりも年下の患者のことがひっかかって仕方がない。

 月曜日に、亡くなった患者のことを偲ぶフェアウェル・カンファレンスをした。

 整理してみると、節目を大事にして彼が旅立っていったことがわかった。

 最後の化学療法をしてからちょうど100日目、家族の勧めで2日に1回打ち始めた丸山ワクチンをちょうど40本打ち終えたところだった。

 

 当院に移ってきてから2ヵ月半くらい。

 やむを得ないことだとわかってはいる。

 それでも、為すすべもなく日々弱っていく患者を見続けるのはつらい。

 会いに行っても、何を話していいのかわからない。

 もちろん、家族も、ほかのスタッフもそうだろう。

 医師や看護師はともかくとして、患者を回復させることが前提のリハビリスタッフとか、患者を社会復帰させることが前提のMSWにいたっては、本人や家族にどう接してあげればいいのか、自分に何ができるのか、自問自答を繰り返したことだろう。

 だけど、いいこともあった。

 病室の壁を使って、クリスマス、お正月の飾りつけ。

 お子さんたちと一緒に最上階の展望天然温泉浴場で入浴。

 食欲がない中でも、甘いものやアイスクリーム(ガリガリ君)を楽しむ日々。

 年末年始を中心とした、学生時代の友人たちとの団欒。

 ご家族には申し訳ないが、お正月三箇日にお部屋にお伺いした際、友人に囲まれていた彼は本当に元気そうで楽しそうだった。

 遠く北陸から、僧職の友人が面会に来られた時はひやひやしたが、ご家族から伺うと、この邂逅で彼の心持が少し落ち着いたとのことだった。

 

 1月も半ばを過ぎると、ほとんどベッドから起き上がれなくなった。

 お子さんのお世話や仕事のため、どうしても夜間のひとときしかそばにいられない奥さんに代わり、お母さんがそばに寄り添っておられた。

 最後の1−2週間くらいは、なんだか小児科の病室に出入りしているような気持ちにさせられたものだ。

 日に日に儚げに、幼子(おさなご)に還っていくようだった。

 本人の希望で、丸山ワクチンの皮下注射を除いては、ほとんど注射や点滴をしなかった。

 疼痛緩和のため、私自身、これまで処方したことのない結構な量のフェンタニル貼付薬を、連日使い続けた。

 一般病棟であるにもかかわらず、長期にわたり個室を使わせてくれた病院管理部門、整形外科や内科の一般急性期患者のお世話をしながらも彼や家族を支えてくれたスタッフのみんなに、心から感謝したい。

 

 ・・・いつまでもくよくよしててもしょうがない。

 前に進もう。