・L858R, Exon 19 deletion以外のEGFR遺伝子変異にはどんな治療がいいのか

 

 記事を書くのをサボっている間に、世間は淡々と動いていたようです。

 ブログにコメントを下さった方が丁寧に教えてくれたので、ESMO 2018の要約を眺める気になりました。

 

 今回記載するのは、L858R、Exon 19 deletion以外のいわゆる稀なEGFR遺伝子変異の実態調査をした研究です。

 予後のいい変異、予後の悪い変異があるのはともかくとして、この患者群には化学療法から開始する方が治療成績がいいそうです。

 それも小さな差ではなく、化学療法から開始した群はEGFR-TKIから開始した群に比べて、約11ヶ月は生命予後が改善したとのこと。

 それから、単一の遺伝子変異をもつ患者よりも、複数の遺伝子変異が相乗りしている患者の方が予後がいいというのも意外な結果でした。

 遺伝子変異が複数あった方が、かえって予後が悪くなりそうですけどね。

 この患者群にEGFR-TKIを使用するならアファチニブ、ということになるのでしょうけれど、まずは化学療法から始めるのがよい、ということでしょう。

 

 

 

 

LBA60 - Uncommon EGFR mutations in lung adenocarcinomas: clinical features and response to tyrosine kinase inhibitors

Aurélien Brindel et al., ESMO 2018

 

背景:

 EGFR遺伝子変異のような癌化に関わる遺伝子変異が見出され、チロシンキナーゼ阻害薬のような分子標的薬が開発されるようになった。そんな中でも、発現頻度の低い遺伝子変異は、今後も研究が必要で、臨床的意義について未だによくわかっていない。今回、フランスのリヨンで診断、精査された腺癌の患者を対象に、EGFR遺伝子変異の中でも頻度の低いものについて、その臨床的な特徴と同様に、出現頻度、病理学的特徴についてレトロスペクティブに検討した。

 

方法:

 リヨン大学病院で、総数7,539件の遺伝子変異検索を行った。サンガー法と、2,009年から2,017年までは次世代シーケンサーで検索し、EGFRのエクソン領域18-21までを対象とした。L858R点突然変異、Exon 19欠失変異、T790M変異、Exon 20挿入変異は除外した。遺伝子変異検索の結果は、2人の病理医が確認した。臨床データは患者のカルテから抽出した。

 

結果:

 857件(全体の11.4%)のEGFR体細胞変異を同定した。そのうち95件(11%)を頻度の低いEGFR遺伝子変異と判定した。Exon 18遺伝子変異が47件(50%)あり、E709X(15%)、G719X(35%)を含んでいた。Exon 20変異は26件(27%)で、S768I(9%)、A767_V769 duplication(18%)を含んでいた。Exon 21 L861Q変異は22件(23%)認められた。興味深いことに、27人(28%)は他の遺伝子変異を併せ持っており、そのうちL858R変異を併せ持つものは9人だった。こうした患者のうち、初回治療を化学療法で開始した患者では、EGFR-TKIで開始した患者よりも生存期間が長くなる傾向が見られた。今回の検討対象となった頻度の低いEGFR遺伝子変異を持つ患者全員を対象とすると、全生存期間中央値は化学療法群で27.7ヶ月(95%信頼区間は21.6-35)、EGFR-TKI群で16.9ヶ月(95%信頼区間は13.6-25.9)、p=0.075だった。全生存期間は遺伝子変異のタイプと相関していた。Exon 18変異とExon 20変異は比較的予後良好であり、Exon 21 L861Q変異は予後不良だった。複数の遺伝子変異を有する患者では、有意差を持って予後良好だった(p=0.002)。

 

結論:

 今回の検討で、頻度の低いEGFR遺伝子変異を有する患者では、EGFR-TKIと比べて化学療法の方が生命予後を改善する傾向が見られた。興味深いことに、いくつかの遺伝子変異ではその他の遺伝子変異よりも生命予後良好で、複数の遺伝子変異が共存している場合も同様だった。