・JIPANG試験・・・術後補助化学療法としてペメトレキセドの出番はあるのか

 おそらく、抗がん薬のみの術後薬物療法エビデンスとしても、ペメトレキセドそのものの効果に関連した臨床試験としても、これが最後の報告となるのではないでしょうか。

 治療標的となるドライバー遺伝子変異のない患者さんに対する治療開発の趨勢は、もはや免疫チェックポイント阻害薬なしには語れなくなっています。

 本試験のポイントを簡単にまとめると、

・術後補助化学療法として、シスプラチン+ペメトレキセド併用療法は、標準治療であるシスプラチン+ビノレルビン併用療法に対する優越性を立証できなかった

・シスプラチン+ペメトレキセド併用療法がシスプラチン+ビノレルビン併用療法と同等であるかどうか、少なくとも統計学的にはわからない

・各種の数字を見る限り、治療効果は遜色ないように見える

・副作用はシスプラチン+ペメトレキセド併用療法の方が明らかに軽い

・副作用が軽いためか、シスプラチン+ペメトレキセド併用療法の方が予定治療が滞りなく施行できていた(≒シスプラチン+ビノレルビン併用療法よりも多くの治療が必要だった)

というところでしょうか。

 あとは、本試験結果をいかに解釈して実地診療に活かすのか、医療従事者の哲学が試されるところでしょう。

 結果はともかく、術後補助化学療法のこれだけ大規模な臨床試験をきちんと完遂した関係各位に賛辞を送ります。

 

 

 

 

Randomized phase III study of pemetrexed/cisplatin (Pem/Cis) versus vinorelbine /cisplatin (Vnr/Cis) for completely resected stage II-IIIA non-squamous non-small-cell lung cancer (Ns-NSCLC): The JIPANG study.

 

Kenmotsu et al.

2019 ASCO Annual Meeting Abst.#8501 

 

背景:

 これまでのところ、切除後非小細胞肺癌に対するシスプラチン併用術後補助化学療法の有効性と安全性が示されているものの、シスプラチン+ペメトレキセド併用化学療法を評価する第III相試験は実施されていない。

 

方法:

 病理病期II期-IIIA期の完全切除後非扁平・非小細胞肺癌患者を対象とした。CP群(ペメトレキセド 500mg/㎡,day1 / シスプラチン 75mg/㎡, day1)とCV群(ビノレルビン 25mg/㎡, day1および8 / シスプラチン 80mg/㎡, day1)の両群に1:1の割合で無作為に割り付けた。割り付け調整因子は性別、年齢、病理病期、EGFR遺伝子変異、治療施設とした。主要評価項目は無再発生存期間、CV群に対するCP群の優越性を検証する試験デザインとし、参加予定患者総数は800人とした。

 

結果: 

 2012年3月から2016年8月までの間に、804人の患者が無作為割り付けされた。有効性の評価対象となった784人(CP群389人 / CV群395人)の背景は、年齢中央値 65歳 / 65歳、IIIA期患者割合 52% / 52%、腺癌 96% / 96%、EGFR遺伝子変異陽性 24% / 25%だった。経過観察期間中央値は45.2ヶ月で、無再発生存期間中央値はCP群で38.9ヶ月、CV群で37.3ヶ月、ハザード比は0.98(95%信頼区間は0.81-1.20、ログランク検定におけるp=0.948)だった。一方、EGFR遺伝子変異陽性の患者におけるハザード比は1.38(0.95-1.99)、EGFR遺伝子変異陰性の患者におけるハザード比は0.87(0.69-1.09)だった。 3年生存割合はCP群で83.5%、CV群で87.2%、ハザード比0.98(0.71-1.35)だった。Grade 3-4の(骨髄抑制関連)有害事象は、発熱性好中球減少症(0.3% vs 11.6%, p<0.001)、好中球減少症(22.8% vs 81.1%, p<0.001)、貧血(2.8% vs 9.3%、p<0.001)と、いずれもCP群の方が軽微だった。抜け毛の割合も、CP群の方が軽微だった(12.8% vs 30.1%)。各群ともに、1人ずつの治療関連死が発生した。治療完遂割合はCP群で87.9%、CV群で72.7%だった(p<0.001)。

 

結論:

 本試験は主要評価項目であるCP群の優越性を証明することはできなかった。しかし、非扁平・非小細胞肺癌完全切除後の補助療法として、CP群はCV群と同等の臨床効果と忍容性を示した。無増悪生存期間において、治療内容とEGFR遺伝子変異の有無に有意な交絡関係が認められた。