ゲノム医療を開始するに当たっての環境 Oncoguide NCC Oncopanelに関連して

2019年 日本臨床腫瘍学会から

 遺伝子プロファイリングを実施する環境についてのシンポジウム。

 本当は、熊本の基幹病院の先生からの発表があったはずで、地方実地医療での遺伝子プロファイリングがいかに難しく、報道が先行したために現場が混乱しているというお話だったらしいのだが、Presidential sessionを聞いていたので間に合わなかった。

 以下を読んでいけば、地方で遺伝子プロファイリング検査を受けて治療に結びつけるのはまだまだ難しい、ということがよくわかる。

 なんらかの結果が出てもそれに見合った治療にアクセスできないもどかしさは、おそらく壇上の演者には分からないだろうが、聴講した大多数の先生方は肌感覚として感じているのではないだろうか。

 

 学会全体を通して、Oncoguid NCC OncopanelやFoundation Oneの話題はよく聞くのだが、より早く普及しそうなOncomine Dx testの話題はほとんど響いてこない。

 おそらく、来年の学会ではOncomine Dx testについてたくさんの演題が出てくることだろうし、そちらの方がよりリアルワールドを反映していることだろう。

○PSY 3-2:ゲノム医療における中隔拠点病院の役割

・Oncoguide NCC Oncopanelは、国立がん研究センター中央病院で実施された先行研究であるTOP-GEAR projectが発展したもの

・ドライバー遺伝子変異:113スポット、tumor mutational burden, 発癌に関わる可能性のある生殖細胞系列変異13スポットを解析対象に含む

・TOP-GEAR project 第2期の実績

 患者登録:657人

 組織からの核酸抽出:622人

 解析:566人

 レポート返却:507人

 →登録した患者のうち、レポート返却までできたのは77.1%

 →実際に治療につながったのは25人(3.8%)

・Oncoguide NCC Oncopanelの保険点数 

 実施した時点で8,000点(80,000円)算定

 解析をして、結果が得られて、エキスパート会議で議論して、結果を患者に伝えた段階で48,000点(480,000円)算定

 現時点で、エキスパート会議は国内11施設のがんゲノム医療中隔拠点病院でしか開催できない

 国内156施設のがんゲノム医療連携病院では、がんゲノム医療中隔拠点病院と共同でエキスパート会議を開催しないと保険償還の条件を満たさない

 エキスパート会議には、検査を受託する理研ジェネシスと生データを収集するC-CATから別々に報告書が届き、それに基づいて判断をすることになる

→まずは、これらのレポートが各施設に届くまでが律速段階になる

・2019年の秋からは、がんゲノム医療地域拠点病院が新たに認定され、エキスパート会議快哉に関しては中隔拠点病院と同じ扱いとなる

・中隔拠点病院は、人材育成と体制整備について、引き続き主導的な役割を担う

○PSY 3-3:がん医療におけるゲノム医療の提供体制について

・C-CATへの臨床データ提供には、患者の同意が必要

○PSY 3-4:がんゲノム医療を推進するための今後の展望(抗がん剤の審査の立場から)

・演者はPMDA職員

・2011年以降、海外諸国と比較しての薬事承認の遅れ、いわゆるドラッグ・ラグはほぼ解消され、製造承認申請から申請までの必要期間は概ね1年くらいになった

・遺伝子解析のコストが格段に下がった

 ヒト全ゲノムエクソンシーケンスにかかるお金と期間

 2003年:30億ドル、13年間

 2016年:1000ドル、1週間

・稀少疾患に対する治療開発の需要が高まり、従来の大規模臨床試験→承認という流れでは新薬の開発ができなくなった

→リアルワールドデータの集積と解析が今後は必要で、その役割はC-CATが担う

・2014年から2018年の期間の承認内容

 薬物:140弱 

 コンパニオン診断が必要な薬物:上記のうち20弱

・近年の承認状況の変遷

 アレクチニブ(初のコンパニオン診断付承認品目):ALK阻害薬、2014年7月4日に承認

単群の臨床試験、参加患者数46人(うち日本人46人)、奏効割合で評価

 オシメルチニブ:第3世代EGFR阻害薬

  単群の臨床試験、参加患者数199人(うち日本人42人)、奏効割合で評価

 セリチニブ:ALK阻害薬

  単群の臨床試験、参加患者数140人(うち日本人24人)、奏効割合で評価

 クリゾチニブ:ROS1阻害薬として

  単群の臨床試験、参加患者数127人(うち日本人26人)、奏効割合で評価

 ダブラフェニブ+トラメチニブ:BRAF V600E変異阻害薬として

  単群の臨床試験、既治療の参加患者数57人(うち日本人1人)、奏効割合で評価

  単群の臨床試験、未治療の参加患者数36人(うち日本人0人)、奏効割合で評価

 ロルラチニブ:第3世代のALK阻害薬として「条件付早期承認」

  単群の臨床試験、参加患者数197人(うち日本人31人)、奏効割合で評価

 ペンブロリズマブ:MSI-highの固形がんに対して「条件付早期承認」

  単群の臨床試験、大腸癌患者61人(うち日本人7人)、奏効割合で評価

  単群の臨床試験、その他の固形癌患者94人(うち日本人7人)、奏効割合で評価

 エヌトレクチニブ:NTRK融合遺伝子変異陽性の進行・再発固形癌に「条件付早期承認」

  単群の臨床試験、参加患者数51人(うち日本人1人)、奏効割合で評価

→直近に承認されたエヌトレクチニブの承認時期は2019年06月18日だが、こうして時系列での承認状況を見ていくと、確かに承認のための要件が格段に緩和されている。生存期間解析結果を承認条件にしたものは皆無で、中には日本人データがほぼないにも関わらず承認されたものも含まれている

○PSY 3-5:検査企業の立場から

・演者はOncoguide NCC Oncopanelの検査を受託する理研ジェネシスの偉い人

・開発はシスメックス、検査受託は理研ジェネシス

次世代シーケンサーによる遺伝子プロファイリングは、高度に洗練された検査のように誤解されているが、実際には時間がかかり、長く複雑な工程を必要とする、労働集約的な泥臭い作業

・検体受け取りから試料調整、作業工程消化、結果解析、レポート返却まで、厳格な品質保証を行いながら、どんなに急いでも10日間はかかる

・新しい技能を持った人材が必要

 次世代シーケンサーを取り扱う実務には時間をかけた訓練に裏打ちされたテクニックが必要

 結果を解釈するためのバイオインフォマティクスに習熟した人材

 最終結果に承認を付すlabo manager→エキスパート会議に参加して実務訓練を積まなければ、判断が下せない

・実際の生データの解釈はとても難しい作業

・今の保険点数のままでは、遺伝子プロファイリングに関わる人はだれも儲からない