2,020年がやってきた。
この年末年始は、2人の肺がん患者が入院したまま年越しをした。
終末期を間近に控えた肺がん患者が年末年始を迎えたとき、私はいつも決まり文句のように、
「この年末年始が最後になると思います」
「ご自宅で過ごせるように、みんなで頑張りましょう」
と話してきたが、最近考えが変わった。
上記の2人は、2人とも自分の意志で、
「外泊はしたくない」
とはっきり言った。
きつくて自宅に帰る自信がないと。
1ヶ月以上前から、なんとか最後のお正月を自宅で過ごさせてあげたいと私も家族も準備してきた。
だけど、それは空回りだった。
刻々と心と体が削られていく終末期の肺がん患者にとって、わずかな期間でも自宅に帰ることが苦痛になることはあるのだ。
たとえ住み慣れた自宅であろうとも、最後の時期は病院の方が快適と感じる患者もいる。
誤解のないように書いておくが、2人とも幸せなご家庭でこれまで生活されていて、ご家族は皆さん心から本人のためにできることをしてあげたいと考えている。
「生活の質を高く保つ」
「患者の尊厳を尊重する」
ことに、万能の解はない。
上記のような患者がいる一方で、たった数時間自宅で最期の時を過ごすために、その日の朝に訪問診療をしてくれる医師・看護師・在宅酸素療法(このときは2台連結して使用した)・介護用ベッドを手配して、半日仕事を放棄して、病棟看護師と一緒に病院救急車でご自宅へ送り届けた患者もいた。
環境が許す限り、できるだけ本人の希望を叶えることが、看取りまでを請け負うがん診療医の責任であると、私は思う。