線を引いて、のちに検証する

 以前、勤め先で感染対策委員会の委員長を務めていたときは、インフルエンザ流行期の対策立案で、随分と「線引き」に苦労した。

 今では随分一般的になった「濃厚接触者」という用語。

 院内でインフルエンザ患者が発生したとき、どんな患者・職員を「濃厚接触者」としてオセルタミビル予防内服対象者とするか、随分と考えた。

 結局、「2m以内の距離で」「30分間以上」インフルエンザ患者の近くにいた人を「濃厚接触者」と定義した。

 そのため、この基準を満たさないように、インフルエンザ流行シーズン中はリハビリスタッフの介入時間を30分以内に制限するなどした。

 濃厚接触患者の隔離期間を「48時間」とするのか、「72時間」とするのかでも、随分と議論になった。

 面会制限も然り。

 インフルエンザ流行期は、乳幼児や「生徒」さんには面会を控えていただくようにした。

 要するに、高校生以下は面会禁止、ということである。

 随分と煩雑な手続きが必要で、後任に職責を譲ってからはかなり見直しが進められ、改善した。

 こうした経緯を経て、院内でのインフルエンザ感染拡大は、随分と抑えられるようになった。

 翻って新型コロナウイルスである。

 もはやだれの目にも疑いなく、新型コロナウイルスは季節の制約を受けない。

 高温多湿のこの時期の日本でも全くお構いなしである。

 メキシコから世界へと瞬く間に広がった2009年の新型インフルエンザを彷彿とさせる。

 新型コロナウイルスは、すでに半年以上も活発に猛威をふるい続けている。

 全く出口が見通せない。

 

 現在勤め先の病院では、

 「福岡と、九州外の都道府県および海外からの家族、知人の病院建物内立ち入り、面会は禁止する」

という方針が貫かれている。

 我が国における現在の流行状況を見るに、これは全く妥当な対応で、むしろ強化しなくてもいいのだろうかという気になる。

 「面会ができないのなら、本人が外泊して、そこに家族が会いに行くのならいいだろう」

という声も聞こえてきそうだが、ことはそう簡単ではない。

 もし万が一ご家族が、無症状ながら新型コロナウイルスの潜伏感染を起こしており、それが本人へ移されたら、その後どうなるだろうか。

 本人の体調悪化もさることながら、新型コロナウイルスに感染した状態で外泊から戻ってきたら、そこから他の患者や病院スタッフに広がったら、と想像すると、空恐ろしい。

 とはいえ、今のままでは、いつまでたっても本州に住んでいるご家族との面会の見通しが立たない。

 進行肺がんで、このまま病状が進行するとそれほど長生きは期待できない、となると、この懸念はさらに強まる。

 線の引き方が、すこぶる難しい。