・根治切除術直後の非小細胞肺がん患者に、バイオマーカー解析をするべきか

 患者さんのことを考えれば、根治切除後できるだけ早い段階でバイオマーカー検索を行っておくのが望ましいです。

 ホルマリン固定された切除臓器は、時間の経過とともに劣化し、バイオマーカー検索がうまくできなくなる可能性があるからです。

 

 肺がん領域のみならず、バイオマーカー解析の話題は近年事欠きません。

 対象となるバイオマーカーが増えて、それぞれに異なる検査手法があり、その中にはコンパニオン診断(その検査が陽性ならば、保険診療でこの治療薬を使っていいですよと認められた検査)として使えるものとそうでないものがあります。

 最近では、ひとつの検査で複数のバイオマーカーを調べられるものも出てきています。

 加えて、技術的には複数の検査でも調べられるバイオマーカーでありながらも、検査Aはコンパニオン診断として認められており、検査Bは認められていない、といったことが発生しています。

 さらには、各検査手法により必要な検体も異なれば、期待される精度も異なります。

 もっと言えば、各検査にかかるお金が高額なうえ、がんゲノムプロファイリング検査ともなれば限られた施設でしかできないため、実施にあたってのハードルが高くなってしまっています。

 結果として、一部のマニアックな研究者、臨床家を除いて、バイオマーカー検索は極めて扱いにくい診療となってしまい、稀なバイオマーカーほどより一層発見されにくい土壌になっているように思われます。

 担当患者さんの生検検査で腺がんと診断がついたとき、たいていの内科臨床医はEGFR遺伝子変異検索とALK免疫染色で満足して、生検組織が大きければOncomine DxTTまで、加えて22C3抗体でPD-L1検索も、といった感じでバイオマーカー検索を行っているのではないでしょうか。

 これだけでも、相当量の生検検体が必要です。

 

 そうした状況であればこそ、せめて外科切除ができた患者さんだけでも、切除した病巣が経年劣化しないうちに、早めに網羅的なバイオマーカー解析をしておいた方がいいのではないか、というのが私の考えです。

 不幸にして術後再発した際、病巣が生検可能な部位になく、切除病巣は経年劣化のためバイオマーカー検索に不適で、結局バイオマーカー検索ができない、というのはどうにもいただけません。

 

 一歩進んで、バイオマーカー検索目的の外科的肺生検、という考え方もあっていいのではないでしょうか。

 ADAURA試験やIMpower010試験の結果を受けて、少なくともEGFR遺伝子変異やPD-L1発現状態は切除した病巣を用いてルーチンで調べることになるでしょう。

 PD-L1発現状態を確認するにあたり使用する免疫染色用モノクローナル抗体のクローンも、内科では使用頻度の多いペンブロリズマブを想定して22C3抗体を、外科では術後補助療法にアテゾリズマブを使用することを想定してSP263抗体を好んで指定する、ということになるかもしれません。

 個人的には22C3抗体だけで十分なように思いますが。