・新年を迎える幸せ

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 こちらの絵は、今年の年賀状に私の母が印刷したものです。 

 私の実家は祖父の代から大分県別府市鉄輪で貸し間旅館を営んでいます。

 そしてこの絵は、常連客だったお客さまが生前に鉄輪を散策し、実家にたくさん遺してくださった水彩画からの1枚です。

 毎年母は、特に懇意にしているお客さまへの年賀状として、毎年1枚を遺作から選び出して印刷し、ひとことを添えて皆様にお届けしています。

 

 私の実家はお部屋をお貸ししてあとはほったらかし、どうぞ好きにやってください、ということで、これといったサービスも致しませんし、お食事も出しません。

 それでも、お客さまは皆さん、気ままに内湯に浸かったり、近所に点在する多様なおお風呂に出かけたり、食材を持ち込んで地獄蒸しにして堪能したりと、楽しんでおられるようです。

 

 敷地内の最古の建物は築80年を超え、随分とガタがきています。

 今もなお濛々と噴気を噴き上げる温泉の蒸気にさらされて、あちこち傷み、シロアリにやられていないところはほぼありません。

 それでも、温泉や地獄蒸し、自由気ままな生活、そして母の人柄に触れるのを楽しみにお越しになるお客さまは、母が進行肺がんを患ったのちも後を絶ちません。

 今年のお正月は比較的国内の新型コロナウイルス感染者数が落ち着いていることもあって、客室はほぼフル稼働です。

 私のきょうだいをはじめ、県内外の親族も帰省して、実家はとても賑わっています。

 

 昨年は、母と義父が進行肺腺がんと診断され、社会人になってこれまでで最も精神的に追い込まれた1年でした。

 親族が自分の専門領域の病気に苛まれたとき、こうまでも自分は無力で、まともな判断ができないものかと打ちのめされました。

 悔やんでも悔やみきれない失敗をいくつもおかし、叩きのめされ、救いを求めました。

 そして今は、たくさんの人に助けられ、母も義父も現代の肺がん薬物療法の恩恵を最大限に受けて、最初の1年を乗り越えることができました。

 助けてくださった方々にはどんなに感謝してもしきれません。

 家族そろって新年を迎えることのできる幸せは、これまでの一生の中でいちばん大きく感じています。

 

 今年からは、単に肺がん診療に携わる医師としてだけでなく、母と義父の闘病生活を支え、実家のこれからを考える家族として、経験と苦悩、そして感謝を書き記していこうと思っています。