・EGFR遺伝子変異陽性肺がん、耐性化後の個別相談事例から

 肺がん患者さんの個別相談において、圧倒的多数を占めるのがEGFR遺伝子変異陽性の進行・再発非小細胞肺がんです。

 正直なところ、ここまで相談が偏るとは思っていませんでした。

 EGFR遺伝子変異をはじめとするドライバー遺伝子変異陽性肺がんでは、分子標的薬の有効性が確立していて、治療選択に悩むことはないだろうと。

 しかし、分子標的薬の効果が落ちてくると、みなさん一様に悩まれます。

 続けられる限り分子標的薬に縋るのか。

 思い切って化学療法や免疫チェックポイント阻害薬に舵を切るか。

 コントロールがついていない病巣だけ手術や放射線治療で叩いて、分子標的薬を続けるか、あるいは薬も切り替えるか。

 分子標的薬が効かなくなったら、潔く無治療経過観察に切り替えて、残りの人生を謳歌するか。

 遺伝子変異があると、思い悩む必要もなく分子標的薬を使う、という成功体験があるだけに、その前提が崩れたときの懊悩は、かえって遺伝子変異が無い患者さんよりも深いのかもしれません。

 今回、ある患者さんのご家族からほぼ完全に近い形で、個別相談内容の公開をお許しいただきました。

#005 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬が効かなくなってから、その後をどうつないでいくか|大分で肺癌診療 セカンドオピニオン・個別相談|note

 

 実はこうして公開の許可を頂けるケースはほんの一握りで、実に約2年半ぶりの掲載です。

 個別相談を始める前、「大分での肺がん診療」ブログのコメント欄で質疑応答をしていたころからのやりとりで、原稿をまとめてみたところ約25,000字、原稿用紙62枚分にも及びました。

 当初は年次は伏せていたのですが、それも公開してよい、むしろ公開してもらった方が分かりやすい、とのご指摘を頂いたので、そのまま記載しています。

 原稿の校正を終えた際のご家族からのコメントを引用します。

 

 早いもので、母が意識を失った日から一年が経過します。

 (コロナ禍で面会制限が課される状況下、)植物状態の中でリモート面会をしたり、転院してからは毎週10分間の面会(面会できる病院を探すのに苦労しました)をしに通ったことが遠い日の出来事のように感じます。

 最後は自宅に連れて帰ってあげたかった、などの後悔もありますが、治療についてはやれることをやり切りました。

 そんな治療経過を読んでいただき、悩んでいる方のお役に少しでも立てるのであれば嬉しい限りです。