・第II相HERTHENA-Lung01試験・・・TKI、PBC後のEGFR遺伝子変異陽性肺がんに対するHER3-DXd

 

 HER3をターゲットとした抗体薬物複合体、HER3-DXdの有効性と安全性を検証するHERTHENA-Lung01試験とHERTHENA-Lung02試験。

 今回は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬、プラチナ併用化学療法のいずれもやり終えたあとのEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者さんを対象にしたHERTHENA-Lung01試験の結果が論文報告されていたので取り上げました。

 対象者の約50%がアジア人(論文の第2、第3著者に日本人が含まれていることから、相当数は日本人と考えられる)、93%がオシメルチニブ治療歴あり、ということで、現在の我が国の実地臨床にかなり近い患者背景と考えて良さそうです。

 奏効割合約30%、無増悪生存期間約5.5ヶ月、全生存期間約1年とまとめられます。

 一方、論文要約ではあまり触れられていませんが、毒性にも配慮が必要です。

 Grade3以上の好中球減少や血小板減少が20%程度に発生し、好中球減少はHER3-DXd投与から3週間ごろから問題となり、回復までに1週間程度かかるそうですので、通常の化学療法よりも長めに経過観察期間をとらなければならなさそうです。

 薬剤性肺障害合併割合は5.2%とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬よりもやや高率で、免疫チェックポイント阻害薬治療歴があると発生割合が倍増するようです。

 今後、日本人サブグループ解析など公表されるのでしょうけれど、本試験結果を以て薬事承認を目指す流れになるのではないでしょうか。

 

 

 

HERTHENA-Lung01, a Phase II Trial of Patritumab Deruxtecan (HER3-DXd) in Epidermal Growth Factor Receptor-Mutated Non-Small-Cell Lung Cancer After Epidermal Growth Factor Receptor Tyrosine Kinase Inhibitor Therapy and Platinum-Based Chemotherapy

 

Helena A Yu et al.
J Clin Oncol. 2023 Sep 10;JCO2301476. 
doi: 10.1200/JCO.23.01476.

 

背景:

 Patritumab deruxtecan(HER3-DXd)は、ヒト上皮成長因子受容体3(HER3)に対するヒトIgG1モノクローナル抗体(Patritumab)に、リンカーを介してトポイソメラーゼI阻害薬(deruxtecan)を結合させた抗体薬物複合体である。HER3-DXdは細胞膜上のHER3に結合すると細胞内のリソソーム内に移送される。がん細胞内で相対的に活性化されているリソソーム内酵素によってHER3-DXdのリンカーが切断され、deruxtecanが核へ移動し、細胞死を誘導する。deruxtecanは膜透過性を有するため、HER3-DXdとして取り込まれた細胞そのものだけでなく、その近傍の細胞にも活性を発揮する。今回は、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん(EGFRmNSCLC)患者に対するHER3-DXdの有効性と安全性を評価した。

 

方法:

 今回の第II相試験は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)とプラチナ併用化学療法(PBC)の治療歴がある進行EGFRmNSCLC患者に対するHER3-DXdの有効性と安全性を評価するように設計した。患者はHER3-DXd 5.6mg/kgを3週間ごとに経静脈投与されるか、あるいは漸増レジメン(3.2mg/kgから開始し、4.8mg/kg、6.4mg/kgと段階的に増量する)に沿って3週間ごとに経静脈投与された。主要評価項目は独立委員会判定による奏効割合(ORR, RECIST第1.1版準拠)とし、PBC後の二次治療としてドセタキセル+ラムシルマブ併用療法について評価したREVEL試験の結果を参考に、ORRの95%信頼区間下限が26.4%を上回った場合には有効と判定することとした。

 

結果:

 HER3-DXdについてHERTHENA-Lung01試験より先行して実施されていた第I相U31402-A-U102試験のデータに基づき、漸増レジメンへの患者集積は早期に中止された。結果として、HER3-DXd 5.6mg/kgを3週間ごとに経静脈投与された225人が有効性・安全性解析対象となった。2023/05/18までで、対象者の追跡期間中央値は18.9ヶ月(14.9-27.5)だった。全体のORRは29.8%(95%信頼区間23.9-36.2)、奏効持続期間中央値は6.4ヶ月(95%信頼区間4.9-7.8)、病勢コントロール割合は73.8%(95%信頼区間67.5-79.4)、無増悪生存期間中央値は5.5ヶ月(95%信頼区間5.1-5.9)、生存期間中央値は11.9ヶ月(95%信頼区間11.2-13.1)だった。ORRの95%信頼区間下限は事前に設定した26.4%を下回っていた。オシメルチニブとPBCの治療歴がある患者サブグループ(209人、全体の92.9%)でも同様の結果だった(ORRは29.2%(95%信頼区間23.1-35.9)、奏効持続期間中央値は6.4ヶ月(95%信頼区間5.2-7.8)、病勢コントロール割合は72.7%(95%信頼区間66.2-78.6)、無増悪生存期間中央値は5.5ヶ月(95%信頼区間5.1-6.4)、生存期間中央値は11.9ヶ月(95%信頼区間10.9-13.1))。プロトコール治療開始前評価におけるがん細胞膜上HER3発現状態、EGFR-TKI耐性化メカニズムによらず、HER3-DXdの抗腫瘍効果は同様だった。組み入れ時点で放射線治療歴のない脳転移巣を合併していた30人において、測定可能病変があった患者は7人のみだった。中枢神経病変奏効割合は33.3%(10/30、95%信頼区間17.3-52.8)だったが、そのうち中枢神経病変完全奏効に至った患者は9人(うち測定可能病変がなかった患者が8人)、部分奏効に至った患者は1人だった。有害事象はGrade3が64.9%、Grade4が28.9%発生し、そのほとんどが骨髄毒性だった。Grade3以上の血小板減少は20.9%で発生し、発生までの期間中央値は8日間、回復までの期間中央値は13日間、Grade3以上の好中球減少は19.1%で発生し、発生までの期間中央値は21日間、回復までの期間中央値は7日間だった。治療関連死は4人(1.8%)発生し、その原因は肺臓炎、肺炎、消化管穿孔、呼吸不全だった。19人で薬剤性肺障害が疑われ、うち12人(5.2%)が薬剤性肺障害と認定され(Grade1 1人、Grade2 8人、Grade3 2人、Grade5(死亡) 1人)、発生までの期間中央値は53日間(9-230)だった。免疫チェックポイント阻害薬治療歴がある患者(90人、40%)とない患者(135人、60%)を比較したところ、薬剤性肺障害は前者では8%、後者では4%の発生割合だった。

 

結論:

 EGFR-TKIとPBCの治療後に病勢進行にいたった進行EGFRmNSCLC患者において、HER3-DXd3週ごと投与は臨床的に意味のある、持続的な、中枢神経病変をも含む有効性を示した。EGFR-TKI治療後病勢進行に至った進行EGFRmNSCLC患者を対象に、HER3-DXdとPBCを比較する第III相HERTHENA-Lung02試験が進行中である。

 

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