腫瘍縮小効果を急ぐとき

静岡県立がんセンターの報告から。

Comparison of the time-to-response between radiotherapy and epidermal growth factor receptor--tyrosine kinase inhibitors for advanced non-small cell lung cancer with EGFR mutation.

Imai H, Shukuya T, Takahashi T, Fujiwara S, Mori K, Ono A, Akamatsu H, Taira T, Kenmotsu H, Naito T, Kaira K, Murakami H, Harada H, Endo M, Nakajima T, Yamamoto N.

Anticancer Res. 2013 Aug;33(8):3279-84.

静岡県立がんセンターを受診した肺癌患者さんのレトロスペクティブな検討結果です。

切除不能非小細胞肺癌(結果としては腺癌の患者さんのみだったようです)で、EGFR遺伝子変異陽性であり、測定可能病変を伴う患者さんのうち、胸部放射線治療を受けた17人、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(イレッサ、タルセバなど)の治療を受けた32人について、腫瘍縮小効果および部分奏効にいたるまでの期間を検討したそうです。

 放射線治療群では奏効割合は64.7%、病勢コントロール率は100%、部分奏効にいたるまでの期間は40日、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬群では奏効割合は81.3%、病勢コントロール率は97%、部分奏効にいたるまでの期間は20日だったそうです。統計学的な優位さに至ったのは部分奏効にいたるまでの期間のみで、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬群の方が有意に期間が短かったということです。

 レトロスペクティブな検討のため解釈には注意が必要ですが、参考資料としては十分です。

 臨床試験では得がたい具体的な数字を示しているという点で、貴重な論文です。

 上記条件を満たす患者さんでは、腫瘍縮小を急ぐとき、例えば窒息を起こしかねないような中枢気道病変がある患者さんや、上大静脈症候群を来たしている患者さん、脊髄への浸潤により麻痺を来たしつつある患者さんなどでは、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬を先に使う方が有利だということです。

 ただし実地臨床では、診断がついていない状態で緊急に治療を要する方が受診されることはしばしばあります。組織診断がついて、EGFR遺伝子変異の状態が判明するまでには最短でも1週間程度はかかりますから、この場合は放射線治療の方が優先されます。

 中枢気道病変や上大静脈症候群の患者さんでの検討は難しい(アバスチン使用が困難)かもしれませんが、脊椎病変を持つ同様の患者群で、アバスチン併用化学療法を行った際に期待できる部分奏効までの期間も知りたいですね。