第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬使用後の中枢神経転移を有する患者に、オシメルチニブ「倍返し」

 オシメルチニブを含む第3世代チロシンキナーゼ阻害薬使用後に中枢神経転移(脳転移、髄膜癌腫症を含む)で病勢進行に至った患者に、オシメルチニブを「倍返し」するという臨床試験が行われたようだ。

 毒性について、肝障害に関する記載はないが、下痢はGrade 2以下ながら40-50%に見られたとのことで、やはり無視できない毒性なのだろう。

 

A phase II, multicenter, two cohort study of 160 mg osimertinib in EGFR T790M-positive non-small cell lung cancer patients with brain metastases or leptomeningeal disease who progressed on prior EGFR TKI therapy

S.Park et al., Ann Oncol in press, 2020

https://doi.org/10.1016/j.annonc.2020.06.017

背景:

 EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者で、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療を受けた人のうち、40%程度は脳転移や髄膜癌腫症による病勢進行に至る。オシメルチニブは第3世代、非可逆性、経口投与のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるが、活動性中枢神経転移に対する効果を示している。しかし、脳転移や髄膜癌腫症に対するオシメルチニブ160mg/日(通常用量である80mg/日の2倍量)治療がどの程度の効果を示すのかは明らかでない。

患者と方法:

 今回の前向き単アーム、2コホートから構成される臨床試験は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による前治療ののちに病勢進行に至った進行非小細胞肺がん患者で、T790M耐性変異が確認され、脳転移もしくは髄膜癌腫症を有するものを対象に、オシメルチニブ160mg/日内服治療の効果を検証する試験である。主要評価項目は各コホートごとに個別に設定した。すなわち、脳転移コホートでは奏効割合とし、期待奏効割合を30%と見積もった。一方髄膜癌腫症コホートでは生存期間とし、期待生存期間を5か月と見積もった。

結果:

 経過観察期間中央値は、脳転移コホートで10.1ヶ月、髄膜癌腫症コホートで9.6ヶ月だった。脳転移コホート(計40人)では、頭蓋内病巣に関する奏効割合は55.0%、同じく病勢コントロール割合は77.5%だった。無増悪生存期間中央値は7.6ヶ月(95%信頼区間は5.0-16.6ヶ月)、生存期間中央値は16.9ヶ月(95%信頼区間は7.9ヶ月-未到達)だった。髄膜癌腫症コホート(計40人)では、頭蓋内病巣に関する病勢コントロール割合は92.5%、完全奏効割合は12.5%だった。生存期間中央値は13.3ヶ月(95%信頼区間は9.1ヶ月から未到達)だった。無増悪生存期間中央値は8.0ヶ月(95%信頼区間は7.2ヶ月から未到達)だった。前治療でどのT790M耐性変異に活性を示すEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を使用したかのサブグループ解析では、オシメルチニブ80mg/日とその他の第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の間で、無増悪生存期間の有意差は認められなかった(脳転移コホート18人ではp=0.39、髄膜癌腫症コホート17人ではp=0.85)。脳転移コホートでは、脳転移巣に対する放射線治療歴は無増悪生存期間延長に関する予後良好因子だった(ハザード比0.42、p=0.04)。主要な有害事象は食欲不振、下痢、発疹だったが、ほとんどGrade 1-2に留まっていた。

結論:

 160mg/回のオシメルチニブ投与は、今回の治療対象となった患者に対して有望な腫瘍縮小効果と生存期間延長効果を示し、毒性も許容範囲内だった。