米国での定位体幹部放射線照射成績

 現在私が勤務している病院では、合併症を多数抱えた超高齢者が次々に入院してくる。

 ときどき70歳代の患者さんを担当すると、「若い」と感じる。

 昨日も胸部多発浸潤影で相談された患者が91歳で、気管支鏡での精密検査をすべきかどうか、心底悩んでいる。

 実臨床の場では、レントゲンやCT画像で明らかに肺がんだろうと感じても、検査も治療もできないということがしばしばある。

 早期の段階で見つかっていても、患者さんが寝たきり状態で高度の認知症であれば、ただ見守るしかない。

 がんセンターや大学病院、基幹病院で最先端の治療や治験に参加する機会に恵まれる患者さんもいれば、早期に見つかったにも関わらずただ病勢の進行を見守って、天に召されるまで何一つ治療の恩恵を受けられない患者さんもいる。

 そんな中にあって、体幹部定位放射線照射やサイバーナイフといった21世紀の放射線治療は、一部の患者さんには福音となっている。

 国内で語られることが多い治療だが、今回は海外の学会で興味深い実臨床ベースの報告があったようだ。

 こういった治療選択肢があるんだ、ということを知らないと患者への情報提供すら出来ないので、肺がん治療の専門家のみならず、広く一般に知られるべき内容である。

ASTRO 2016: Widespread Adoption of SBRT Has Improved Survival Rates for Elderly Patients With Early-Stage Lung Cancer

By The ASCO Post

Posted: 9/27/2016 1:49:12 PM

Last Updated: 9/27/2016 1:49:12 PM

 高齢の早期非小細胞肺癌患者に対する体幹部定位放射線照射により、ここ10年で生存割合がざっと40%から60%に向上したと報告された。

 近年、体幹部定位放射線照射は手術不能の早期非小細胞肺癌患者に対する標準的治療に位置付けられている。古典的な放射線照射法に比べて、体幹部定位放射線照射は治療標的を絞り込み、わずか1−5回の高線量分割照射で治療する。合併症を多数抱え、外科的治療選択をしがたい高齢患者において、地域医療における主要な治療策として体幹部定位放射線照射が普及しつつある。

 今回の報告では、米国の国立がん研究所のSEERデータベースを用いて、体幹部定位放射線照射の普及に伴い、高齢早期非小細胞肺癌患者の全生存期間ないし無病生存期間がどのように変化したか、あるいは高齢者治療における放射線照射と外科治療の比較について解析を行った。

 データベースから、2004年―2012年の間にI期の非小細胞肺癌と診断された60歳以上の患者62,213人を抽出した。腺癌、扁平上皮癌、腺扁平上皮癌と組織診断され、局所治療を受けた記録が残っている患者を対象とした。

 60-64歳、65-69歳、70-74歳、75-79歳、80-84歳、85-89歳、90歳以上の年齢区分に分けて、全生存期間と無病生存期間を解析した。治療方法と年齢を指標として、Kaplan-Meier法、ログランク検定、コックス比例ハザードモデル、Fischerの正確確率検定を用いて解析した。

 今回の対象期間内で、体幹部定位放射線照射の治療成績が飛躍的に向上していることが分かった。2004年から2012年というのは、体幹部定位放射線照射が地域医療において広く普及した期間にあたるが、放射線照射単独治療後の2年生存割合は39%から58%へ、20%近くも向上した(p<0.001)。一方で、外科手術単独治療後の2年生存割合は79%から84%へ、5%向上していた(p<0.001)。放射線治療も手術も受けなかった患者の2年生存割合は、変化なかった(28%から33%に変化、p=0.29)。

 同様に、放射線照射単独治療後の2年無病生存割合は48%から72%に改善し(p<0.001)、手術単独群でも87%から91%に改善していた(p<0.001)。放射線治療も手術も受けなかった患者では、38%から45%に変化していたが、ギリギリ有意差には至らなかった。

 I期の非小細胞肺がんに対する手術の適用は、患者が高齢になるほど減少した(p<0.001)。60-64歳の年齢層の81%が手術を受けた一方で、80歳以上では手術が可能な患者は47%に留まった。対照的に、放射線治療の適用は、高齢になるほど増加した。60-64歳の年齢層では11%が放射線治療を受けたに過ぎないが、90歳以上では39%が放射線治療を受けていた(p<0.001)。治療を受けなかった患者は、60-64歳の年齢層では7%程度だったが、90歳以上の年齢層では40%にも上っていた。

 全生存期間と無病生存期間が改善したにも拘らず、放射線治療を受けた患者の生存割合は、手術を受けた高齢者の生存割合よりも劣っていた。著者らは、より全身状態のよい患者が手術を受けるという選択バイアスが一部で働いたのだろうと説明している。そのため彼らは、患者背景をマッチさせた上での放射線治療と手術療法の比較試験の必要性を強調している。同様に、放射線治療群の中に姑息的な体幹部定位照射症例や古典的な前後対向二門照射施行症例が含まれていることも手術群の方が優れていた理由の例として挙げている。

 「合併症のために手術が難しい、もしくは何らかの理由で手術を受けたがらない患者に対し、担当医は放射線治療の選択肢を自信をもって勧めるべきである」

 「地域のがんセンターにおいて体幹部定位放射線照射を続けることで、より多くの患者が体幹部定位放射線照射の恩恵を受け、年齢や合併症のために治療が成されないままになっている患者が減ることを願っている」

 「依然として手術施行群の治療成績が最もよいが、今回の研究により、?手術適応のない患者に対する体幹部定位放射線照射療法の有用性、?ここ10年間で、放射線治療による治療成績が他の治療法に比べて加速度的に改善していること、が明らかになった」

 「体幹部定位放射線照射へのアクセスを向上させることで、今後増えていく高齢早期肺がん患者の治療成績の向上も期待される」

と著者らはコメントしている。