がん治療革命

 本日午後9時からのNHKスペシャル、「“がん治療革命”が始まった 〜プレシジョン・メディシンの衝撃〜」を視聴した。

 http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20161120

 家族に反対されるかと思いきや、幸いこの時間帯は競合する番組がなく、平和に視聴できた。

 網羅的遺伝子解析が一部の患者さんの福音となっていることは間違いない。

 しかし、未だにハードルは高く、多い。

 

? 患者さんが自分の病気のことをよく理解する

? 患者さんが治験や臨床試験のことをよく理解する

? 患者さんが網羅的遺伝子解析が出来る病院にたどり着く

? 患者さんから網羅的遺伝子解析が出来るがん組織が得られる

? 担当医が適切にがん組織を取り扱い、検査に提出する

? 提出されたがん組織が網羅的遺伝子解析に耐える良質な組織である

? 網羅的遺伝子解析で治療対象となる遺伝子異常が見つかる

? 治療対象となる遺伝子異常に有効な治療薬が使用可能である、あるいは参加可能な治験・臨床試験が進行している

? 治療薬が使用可能な病院、あるいは治験・臨床試験が行われている病院に患者さんが行ける

? 患者さんの病状が、治療可能な状態に保たれている。

 パッと考え付くだけでも以上のようなハードルがある。

 これまでに自分の診療やブログでの相談の中で、それぞれの段階でひっかかっている方々に遭遇した。

 検査を行ってから網羅的遺伝子解析の結果が判明するまでに3−4週間を要するが、私が初めて網羅的遺伝子解析に参加してもらった患者さんは、治療対象となる遺伝子異常が見つかったものの、適切な治療を受けられる病院は岡山か北海道にしかなく、これらの病院を受診する体力は既に患者さんには残されていなかった。

 現場で働く医師にとっては、?も大きなハードルだ。

 普通の個人病院では、経気管支肺生検を行っているその隣に-80℃のフリーザーなんて置いていない。

 それどころか、超音波気管支鏡診断装置もないし、ガイドシースもないし、迅速細胞診が出来る体制もない。

 しかし実際には、

 「確実に腫瘍細胞が含まれている腫瘍組織を、採取後直ちに-80℃で保存して、EGFR遺伝子変異が陰性であることを確認した後に検査会社へ提出すること」

と要求されているため、これを満たそうと思ったらそれなりの検査体制が整っていることが望ましい。

 だからこそ、声を大にしていいたい。

 思い立ったが吉日である。

 少なくとも、網羅的遺伝子解析に参加できる病院は、全国どの都道府県にもある。

 しかし、治験・臨床試験に参加できる病院は各地方を代表する大都市にしかない。

 地方に住む患者さんほど、もし意思があるのなら、早めに網羅的遺伝子解析を受けて、チャンスがあれば体力があるうちに、少しでも若いうちに、病状が進まないうちに治験や臨床試験に参加して欲しい。

 10年前は治験・臨床試験といえば、それを勧める医師ですら

 「まだ毒とも薬ともいえないものを使った治療になるかもしれない」

と説明していたが、今は少なくとも分子標的治療の領域では、

 「あなたにはこの薬が有効であろう遺伝子異常が事前検索で見つかっているので、有効性がかなり期待できる」

という説明に変わりつつある。

 そして、もし患者が求めるなら、インターネット他のいろいろな情報源を使って、自分が参加しようとしている治験・臨床試験がどんなものなのか、現時点でどんな位置づけにあるものなのかを調べられるようになった。

 実際に、本ブログにコメントを寄せてくださる患者さん・ご家族の知識のなんと深いことか、いつも思い知らされる。

 おそらく、文字通り血眼になって情報を探されているのだろう。

 今週は、未診断・非喫煙者・女性・高齢の肺がん疑い患者が2人外来を受診することになっている。

 幸いPSはよさそうなので、同意していただけるなら万難を排してLC-SCRUMへの参加を勧めたい。