上乗せすることで毒性が軽減される抗腫瘍薬:Plinabulin

 いわゆる「抗がん薬」=「殺細胞性抗腫瘍薬」の話題は、このところすっかり寂れた。

 そんな中、面白い薬の話題が届いた。

 二次治療でドセタキセルと併用したところ、奏効持続期間が延長し、好中球減少の毒性は軽減されたとのこと。

 上乗せしたことにより、毒性が軽減される抗がん薬は珍しい。

 似たような薬をちょっと思い出せない。

 全生存期間は延長せず、奏効持続期間が延長したということは、効果がある患者とない患者ではっきり運命が分かれるということだ。

 今のところ「測定可能病変がある」ということが効果予測因子のようだが、これだけではちょっと納得できない。

 その他の効果予測因子が見いだされてくれれば、新しい武器になる。

Plinabulin Demonstrates Provocative Results in Advanced NSCLC

ASCO-SITC Clinical Immuno-Oncology Symposium

February 24, 2017

Abst.#139

 治療歴のある局所進行/進行非小細胞肺癌患者に対し、現在開発中のPlinabulinをドセタキセルに上乗せして使うと、全生存期間を延長する可能性があることが示された。測定可能病変を有する患者がこの治療の恩恵を最も受けるようで、生存期間中央値は4.6ヶ月延長し、奏効持続期間は約1年間延長した。

 Ceders-Sinai医療センターのDr.Alain Mitaが、今回の無作為化第II相臨床試験の結果を報告した。

 Plinabulinは新規の小分子化合物で、チュブリン分子のコルヒチン結合部に接着し、微小管の動態を不安定化する。したがって、Plinabulinを微小管の動態を安定化するドセタキセルと併用するのは、直感的に言えば合理的でないように思われる。しかし、基礎研究からは、腫瘍の微細環境におけるPlinabulinの多彩な効果が明らかになっている。すなわち、caspase-3を介した腫瘍細胞のアポトーシス誘導、樹状細胞の成熟化刺激、T細胞による腫瘍細胞攻撃の誘導、サイトカイン放出を介した好中球アポトーシスの抑制などである。

 

 今回の第II相試験では、IIIB/IV期の非小細胞肺癌患者を対象に、二次治療/三次治療としてPlinabulin+ドセタキセル群とドセタキセル群に無作為割付し、主要評価項目は全生存期間とした。Plinabulinは、毒性の軽減を図る目的で、30mg/?の量で投与する患者コホート1と、20mg/?の量で投与する患者コホート2に分けて評価した。ドセタキセルは75mg/?の投与量で3週間に1回投与した。Plinabulinは治療1コースあたり、1日目と8日目に併用した。

 患者コホート1では、肺に測定可能病変をもつ患者と持たない患者を取り混ぜて、計105人を治療した。生存期間中央値は、Plinabulin+ドセタキセル群では8.7ヶ月、ドセタキセル群では7.5ヶ月で、その差は1.2ヶ月であり、統計学的有意差には達しなかった。対照的に、奏効持続期間には11.2ヶ月の開きがあった。奏効持続期間は、Plinabulin+ドセタキセル群では12.7ヶ月だったのに対し、ドセタキセル群では1.5ヶ月で、統計学的に有意な差が見られた(p<0.05)。

 患者コホート1におけるPlinabulinの効果は、測定可能病変を有する76人に限って評価するとより明らかだった。この患者群では、Plinabulin+ドセタキセル群の生存期間中央値は11.3ヶ月に達し、一方でドセタキセル群では6.7ヶ月で、両者には4.6ヶ月の開きがあったが、それでも統計学的有意差には至らなかった(p=0.29)。奏効持続期間は、Plinabulin+ドセタキセル群では12.7ヶ月だったのに対し、ドセタキセル群では1.0ヶ月で、こちらは統計学的に有意差があった(p<0.05)。

 Plinabulinにより悪化した有害事象は、下痢、嘔気、嘔吐、頭痛、めまい、血圧上昇だった。しかし、これらの毒性は押しなべて軽度であり、Plinabulinの投与量を30mg/?から20mg/?に減らすと有害事象発生頻度も低下した。発表者のDr Mitaによると、血圧上昇はPlinabulin投与後数時間の間の一過性のもので、合併症を残さずに改善するとのことだった。

 興味深いことに、Plinabulinにはドセタキセルによる好中球減少を抑制し、研究者を驚かせた。ドセタキセル群では約33%の患者が、初回投与時にGrade 4の好中球減少を合併したが、Plinabulin+ドセタキセル群では3-5%まで抑えられており、統計学的に有意な差を示していた(p<0.0003)。これは、敗血症(3.6% vs 0%)、重症感染症(3.6% vs 0%)、ドセタキセル投与量の減量(19.2% vs 6.7%)といったほかの有害事象、治療薬減量とも関連していた。

 これらの結果に基づき、国際第III相試験であるDUBLIN-3が開始されつつある。少なくとも1箇所の測定可能病変を有する進行非小細胞肺癌患者を対象に、二次/三次治療としてPlinabulin+ドセタキセル併用療法とドセタキセル単剤療法を比較するデザインである。

 

 その他にも、Plinabulinの免疫増強作用をより効果的に利用するための臨床試験が、非小細胞肺癌患者を対象に開始されようとしている。大腸がんや乳がんの動物モデルを使った前臨床試験では、PD-1やPD-L1阻害以外のメカニズムを介して腫瘍の発育を遅らせるPlinabulinとその他の免疫療法との併用効果が示唆されている。Plinabulinとニボルマブを併用する第I/II相の医師主導治験が非小細胞肺がんを対象に計画されている。