画像診断(所見)見落とし つづき

 先日標記の話題を取り上げたが、日経メディカルに詳報が掲載されていた。

 日経新聞よりも詳しく記載されており、これによると直接死因は肺がんではなく肝硬変ではないかと考えたくなるが、だからといって見落としの事実が正当化されるわけではない。

 新聞記事だけを読んでいると、

 「肺癌が見落とされたために、肺癌の進行がもとで患者が死亡した」

と誤解しかねない。

 今回の記事と、過去の関連記事を併せて引用する。

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リポート◎指摘の見落とし、連携不足、多忙など改善点は多く

< 画像診断報告書の確認漏れが起こる理由 >

2017/3/23

 昨年末、名古屋大学附属病院(石黒直樹院長)は、胸部の画像所見が共有されなかったことから肺癌の診断・治療が3年遅れた事例について調査報告書を公表した。患者は、外耳道癌と診断され治療を受けた80歳代女性で、最終的に肺癌の増悪によって死亡した。同病院は、この事例に対する診療行為が不適切だったと認め、遺族に対して説明し謝罪した。

 この事例では、主治医の確認ミスが明らかだった。また、そのミスをチェックすることができたはずのカンファレンスが機能していなかった点も問題視された。主治医の所属する診療科は年度末のため診療に当たる医師が少なく、これに長時間の手術が重なったため、主治医が定例のカンファレンスに出席できず代行の医師も立てられなかったとみられている。

<「肺癌の疑い」を1年間放置、患者は死亡>

 名大病院に続き、今年2月には、東京慈恵会医科大学附属病院(丸毛啓史院長)で、画像診断報告書の重要情報が共有されずに1年間放置された事例が発覚。同病院は2月4日、この事例の経過と発生要因の分析、さらには現時点での対応と改善策を公表した。

 事例の経過はこうだ。患者は50歳代男性で、C型肝炎で同病院の消化器科・肝臓内科に通院していた。2015年10月に、高度の貧血を認めて緊急入院となり、上部消化管出血を疑った当直医は、胸腹部CT検査を実施。その結果、画像診断報告書に「右肺尖部濃度上昇;悪性腫瘍否定にも短期間でのフォローが望まれる」との記載があったことから、当直医は入院診療録に「右肺尖部濃度↑」と記載するとともに、翌朝の申し送りで口頭で伝えたという。しかし、入院主治医チームは、当直医の入院診療録の記載や画像診断報告書を確認することはなかった。入院主治医チームは消化管出血の診療に専念し、症状が軽快したため患者を退院させた。

 退院後、患者は消化器・肝臓内科の外来に月1回の頻度で通院していた。この間、呼吸器関連の自覚症状はなかったという。

 2016年10月、患者は肝硬変に関連すると考えられる腹水貯留を精査し治療するために同病院に入院。発熱、咳が出現したため胸部X線検査を実施したところ、右上肺にすりガラス陰影を認めたことから、同月に胸部CT検査が行われた。その画像診断報告書には、「右肺上葉の原発性肺癌、右肺・縦隔にリンパ節転移が疑われ、左肺尖部にも原発性肺癌」という所見が記されており、この時点で肺癌と確認された。結局、肺癌との診断に至ったのは、「右肺尖部濃度上昇」という重要情報が得られてから1年後のことだった。

 この段階で主治医は患者・家族に対し、「今回のCT検査で肺癌の所見があり、現時点では、肝硬変の悪化もあり、肺癌の治療は困難である」と伝えていた。この1カ月後には「1年前の救急入院時のCT検査においても肺癌の可能性が指摘されている」と説明。「この指摘を主治医側がきちんと受け止めず、結果として肺癌の発見が遅れてしまった」とした上で、「その時点(1年前)であれば、肺癌の外科的措置の可能性があった」とし肺癌発見の遅れを謝罪している。

 その後、2016年末に患者は発熱と呼吸困難感が出現したため救急入院となった。肺癌に加え、肝硬変の悪化も伴う重篤な状態が続き2017年2月に死亡した。

<確認漏れは様々な診療科で発生>

 この事例では、「肺癌の疑い」という当直医が発した情報が、入院主治医チームばかりか外来主治医にも伝わっていなかった。このため同病院は、2月段階での対応として、「院内での事例の共有・注意喚起」を挙げ、(1)全診療部を対象に診療部ごとに画像診断リポートの確認・共有対策について集中検討会を実施、(2)セーフティマネジャーを介した啓発、(3)全診療部門診療部長が参加する診療部会議での注意喚起――を実施することを表明した。

 また改善策としては、診療情報の共有を確実にするためのワーキンググループの立ち上げ、予防対策の立案に取り組むとしている。同病院内の過去の事例や日本医療機能評価機構が指摘している問題点を検討し、特に(1)画像診断部から担当医へ直接連絡する場合の基準引き下げと確実な情報共有、(2)各種診断結果についてのダブルチェックと時間差チェック体制の構築、(3)読影確認ボタンを押す人の限定化、(4)画像診断結果の識別度の向上、(5)紙印刷による結果の共有、(6)救急担当医と入院担当医、当直医と入院担当医、入院担当医と外来担当医など、担当医師の交代時に用いる連携引き継ぎシート(ハンドオフシート)の作成と必須化――を挙げ、継続して議論するとしている。

 同病院は現在、外部の有識者を交えた調査委員会を立ち上げ、再発防止策を吟味している段階だ。より具体的な再発防止策については、調査委員会の結果を待たなければならない。

 日本医療機能評価機構が行っている医療事故情報収集等事業のデータベースを基に画像診断報告書の見落とし事例を探索したところ、編集部が調べた2017年3月時点で9件存在した。発生日時が非公開のため時系列の解析はできないが、事例の背景情報は以下のとおりだった。

 発生場所は、外来診察室が7件、病室と救急外来が1件ずつ。関わっていた診療科は、血液内科、麻酔科、循環器内科、外科、眼科、耳鼻咽喉科、内科(腎臓内科)、消化器外科、呼吸器内科、心臓血管外科、肝胆膵外科、神経科と多岐にわたっていた。画像診断報告書の見落としは、様々な診療科で発生しているようだ。

 それぞれの発生要因を見ていくと、「確認を怠った」が全例で指摘されており、コンピューターシステムの不備、診療科間の連携不足、確認ルールの不備なども上がっていた。また、「勤務状況が繁忙だった」も2件で指摘されていた。画像診断報告書の見落としが生じる要因は様々で、改善点も多岐に及ぶことをうかがわせる。

<医師と診療情報管理士による第三者チェック>

 解決に向けた取り組みの1つとして、愛知県小牧市小牧市民病院(谷口健次院長)の例を紹介したい。同病院では医師と診療情報管理士によるチェックシステムを構築し、主治医による画像診断報告書の確認漏れを防ぐ取り組みを続けている。

 きっかけは3年ほど前。谷口氏が副院長として医療安全を担当していた時に、報告書の内容が確認されず診断の遅れを生じた可能性のある事例が相次いだ。このような事例は、2014年6月時点で4件確認されたという。

 同病院ではCT、MRI核医学の3つの検査で、放射線科医師が画像診断報告書を作成している。相次いだ確認漏れ事例はいずれもCT検査の報告書で、悪性疾患が疑われる所見を主治医が確認しておらず、診断までに半年以上が経過していた。4件の発生要因は様々で、いずれの事例においても、画像診断報告書の確認不足を防ぐための対策が十分ではなかった。

 さらに、画像診断報告書の所見に基づいた診断に至らなかった原因と分析をしたところ、(1)報告書の確認不足、(2)担当医の画像診断の不十分さ――の2点が浮かび上がった。(1)では、担当医が報告書を全く読んでいなかった事例や、報告書は読んでいるが検査の主目的に関連する部分しか読んでいなかった事例が確認された。また(2)では、主な疾患に関連する所見や自分の専門領域の所見しか読影していなかった事例があった。

 これらの検討から、担当医は検査の主目的に関する所見以外に、偶然に指摘された所見を見落とす傾向があることや、担当医自身の読影は専門領域以外では不十分になりやすいことが明らかになった。その対策として、「画像診断報告書で指摘された異常所見が診療内容に反映されているかどうかを、第三者によりチェックする仕組みが必要と考え、まずCT検査で取り組んだ」(谷口氏)。

 具体的には、(1)診療情報管理士とチェック担当医師が、検査翌日までに、報告書の一覧から臨床上問題となる新たな異常所見が指摘されているものを選別する、(2)診療情報管理士とチェック担当医師が、異常所見が診療記録に反映されているかどうか、カルテを参照しながら確認する、(3)確認は検査翌日に行い、その後は2、4週間後をめどに異常所見が診療録へ反映されるまで継続する、(4)早急な対応が必要と考えられる場合、あるいは担当医による確認が不十分と判断される場合は、医療安全管理を担当する副院長から直接、担当医に連絡して対応を促し、報告書の確認を徹底するよう指導する――というものだ。

 診療情報管理士とは、四病院団体協議会日本病院会全日本病院協会日本医療法人協会日本精神科病院協会)と医療研修推進財団が認定している民間資格のこと。日本病院会が認定した大学、専門学校でも育成が行われている。診療記録や診療情報を管理しそれらの情報を活用することで、医療の安全管理や病院の経営管理に貢献する専門的な職業と位置付けられている。改称される前の診療録管理士も含めると、認定者は全国で3万人を超えている。

 小牧市民病院では、第三者がチェックする仕組みを導入してから1年間に4万38件のCT検査があり、そのうち報告書の確認不足と判断して主治医に連絡した事例は99件だった。これらの内容を吟味したところ、悪性疾患の治療の遅れを生じかねない事例は11件だった。つまり、第三者のチェック体制を取り入れたことで、1年間で11件の見落としにつながり得る事例を回避できたことになる。

 谷口氏は、「当院での取り組みは、報告書の確認不足をチェックするだけでなく、医師に情報を提供し指導することで、報告書の所見の重要性を再認識してもらうことも目的」と話す。チェックシステムの導入から2年余りとなるが、報告書の確認不足事例は着実に減少しており、2014年以降、報告書の内容が確認されず診断の遅れを生じた可能性のある事例は発生していない。

 「必要に迫られて見切り発車的にスタートしたため、方法としては効率面も含め発展途上であることは否めない」と話す谷口氏は、今後も試行錯誤を繰り返しながら適宜修正し、画像診断報告書の確認不足の解消に努めていきたいと語っている。

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画像所見共有されず、術前カンファレンスも機能せず

< 名大病院、肺癌診断・治療が3年遅れた事例公表 >

2016/12/28

 名古屋大学附属病院(石黒直樹院長)は12月26日、胸部の画像所見が共有されなかったことから肺癌の診断・治療が3年遅れた事例について調査報告書を公表した。患者は、外耳道癌と診断され治療を受けた80歳代女性で、最終的に肺癌の増悪によって死亡した。同病院は、この事例に対する診療行為が不適切だったと認め、遺族に対して説明し謝罪したことも明らかにした。

 報告書によると事実経過は表1のようになる。この中で調査委員会は、以下のような不適切な診療行為があったことを認めている。

 まず、放射線科医による左肺上葉結節影という所見がありながら、その情報が耳鼻咽喉科の診療チーム内で活用されなかった点だ。主治医は、放射線科医師が作成したFDG-PET画像診断報告書の所見のうち、外耳道癌の遠隔転移・リンパ節転移はないという記載を確認した後に根治手術を行うことを予定していた。しかし、同時に記載されていた「左肺に2カ所陰影があり、炎症性変化を疑うものの原発性肺癌の可能性を否定できない」という記載については、「当時の記憶がない」と話したという。

 また、主に外耳道癌の進行度やリンパ節・遠隔転移の有無を把握するために中内耳造影CT検査も行われており、その結果、外耳道癌の局所の浸潤や頸部リンパ節転移は認めなかったものの、左肺の陰影は指摘されていた。しかし主治医は、所見欄の「肺癌は否定できない」との記載についても、内容を確認したかどうかは記憶が定かでなかったという。

 さらに、科長など診療責任者が参加する術前カンファレンスがあったにもかかわらず、今回の事例はカンファレンスで検討されていなかった。年度末で勤務医師が少なく、他の長時間にわたる手術が行われていたこともあって、主治医がカンファレンスに参加できなかったという。代行者を用意するなどの対応もされていなかったことから、報告書は「耳鼻咽喉科における術前カンファレンスが形骸化していた可能性を否定できない」と指摘し、同科のガバナンス体制が不適切だったとした。

 結局、こうした不適切な診療行為が重なった結果、肺癌を示す情報がありながら、患者・家族に手術を含めた治療の選択肢が与えられなかった。この点について調査委員会は「標準的な対応とは言えない」とし、「患者の治療選択の可能性を閉ざしたものであり、不適切だった」とまとめている。 なお、肺癌の診断遅れによる生命予後への影響については、正確に評価することは難しいとしつつ「適切な時期に手術が施行されていたら、ある程度の長期生存が望めた可能性があった」と言及している。

<肺癌の診断・治療が3年遅れた事例の経緯(名古屋大学病院の事例調査報告書を基に作成)>

2010年4月20日

・左耳痛を主訴に名大病院耳鼻咽喉科を受診

・CT撮影により左耳介軟骨炎と診断し投薬治療を開始

・左耳痛が改善せず、同科を複数回受診、投薬治療が行われた

2011年1月31日

・外耳道軟骨部後壁に軟骨様の硬さの2cm程度の腫瘤を認める

・検査の結果、外耳道癌と診断

2011年2月8日

・外来担当医師が患者に告知

2011年2月25日

・癌転移検索のためFDG-PETを実施

放射線科医師が「左外耳道後壁に淡い集積(SUVmax0.8)を伴う壁肥厚あり。リンパ節転移や遠隔転移を疑う異常集積なし。左肺上葉S3末梢に19mm大の腫瘤性病変あり。左肺上葉S1+2の気管支周囲にも斑状のスリガラス陰影あり。SUVmaxは 1-1.5程度。炎症性変化の疑いだが、肺癌の可能性を否定できない。左外耳道癌については転移を指摘できない。左肺上葉結節影については精査下さい」という趣旨の画像診断報告書を作成(写真1参照)

・主治医は、指摘された左肺上葉結節影については患者への説明や精査をしないまま、外耳道癌について頸部リンパ転移を認めない局所病変と判断し手術を提案。患者は手術を選択した

2011年3月10日

・主に外耳道癌の進行度やリンパ節・遠隔転移の有無を把握するために、中内耳造影CT検査が行われる

・その結果、外耳道癌の局所の浸潤や頸部リンパ節転移は認めなかったものの、左肺の陰影の指摘はされていた

2011年3月28日

・定例カンファレンスで検討されるはずだったが、主治医不在のためこの症例は検討されず

2011年3月30日

耳鼻咽喉科内での共有・検討の機会がなく、他の医師のチェックを受けることもないままに入院

2011年4月1日

・外耳道悪性腫瘍手術を実施

・退院後に通院による耳の経過観察が行われる

2014年3月17日

耳鼻咽喉科を予約受診。転移検索のための胸部CT検査を受ける

・CT検査の結果、肺腫瘍の指摘があり呼吸器内科を受診し、各種検査を受ける

・その結果、T2bN0M1b(肺転移)ステージIVの肺腺癌と診断される。この癌は、2011年2月25日のFDG-PETで指摘された陰影が増悪したものだった

・その後、医師と患者本人・家族で相談し、肺腺癌に対する積極的な治療をしないBest Supportive Care(BSC)を行うことに

2015年4月

・患者は同癌により死亡した

<画像診断報告書の視認性の改善も>

 調査委員会は、再発防止策も提言。患者を引き継ぐ際の情報共有体制の強化とガバナンスの向上のほか、画像診断報告書の視認性の改善も求めている。

 前者では、カンファレンスにおいて主治医・担当医が直接患者の臨床経過を総括し、参加した他の職員によるチェックを受け、さらに診療の責任者に治療方針の承諾を得るといった「本来のカンファレンス体制を構築しなければならない」と指摘している。

 一方、後者においては、報告書がパソコン画面上で閲覧されている点を踏まえた留意点を挙げている。現状、報告書は上部に全ての画像所見をまとめた「所見」が記載されている。その下部に要約である「impression」が配置されている(写真1)。この配置を逆にすることで、報告書の重要点の把握を優先するよう促すことが期待できるとしている。