たまたまCoVID-19に感染していた肺がん患者の術後肺病理所見

 武漢で肺がん根治切除術を受け、たまたまCoVID-19感染合併が明らかとなった患者2人の報告があった。

 うち1人は、明らかにCoVID-19の院内感染事例である。

 もともと診断がついていたCoVID-19感染患者と同じ病室に入院させたのであれば、過失を糾弾されるのは免れない。

 ただし、今回は術後に患者が死亡して、その後の追跡調査で感染経路が判明したとのことで、責められない。

 同じようなことは、我が国でも感染が拡大し、一般医療機関でもCoVID-19感染症の診療をせざるを得なくなったら、十分に起こりうる。

 もはや対岸の火事でないことは、誰の目にも明らかだろう。

 報道を見る限りでは、CoVID-19に対する対策は、本邦よりも中国の方が遥かに進んでいる。

 政治形態の違いによるところは大きいが、非接触型の体温計の活用やゾーニングの徹底など、学ぶべきところは多いのではないだろうか。

 一方、今回の報告の目玉であるCoVID-19感染者の肺病理所見は、無症状の時期ながら急性間質性肺炎や特発性器質化肺炎を思わせるようなフシがある。

 肺の末梢のみならず、比較的中枢の気道にも影響が及んでいるようだ。

 

Pulmonary Pathology of Early COVID-19 Pneumonia Identified Retrospectively in Two Patients With Lung Cancer

Sufang Tian et al., J Thorac Oncol 2020

DOI: https://doi.org/10.1016/j.jtho.2020.02.010

 新型コロナウイルス感染症患者の切除肺の病理所見について、Journal of Thoracic Oncology誌上でTianらが報告した。

 シカゴ大学医学部のXiaoが、中国の武漢大学附属中南病院の臨床医とともに研究チームを組織して、今回の報告をまとめ上げた。

 本論文では、2人の患者について扱っている。2人とも、原発性肺腺癌に対する肺葉切除術を最近受けた。術後に、手術を受けた時点でCoVID-19に感染していたことが分かった。病理組織学的検査により、肺がんの病巣とは離れた部位で、肺組織の浮腫性変化、たんぱく質を含む浸出液、局所的な反応性肺胞上皮細胞過形成、斑状の炎症細胞浸潤、多核巨細胞といった所見を認めた。また、線維芽細胞による栓子が下気道に目立っていた。

 Xiaoは、

 「これまでのところ生検や病理解剖の報告がない中で、CoVID-19による肺炎の病理所見に関する報告は、これが初めてだ。今回報告した2人の患者は、いずれも手術を受けた段階では肺炎の症状を示していなかった。そのため、今回の病理所見は、CoVID-19肺炎の初期像を見ているに過ぎないだろう」

とコメントしている。

 1人目の患者は、84歳の女性で、他施設のCTで指摘された右肺中葉の1.5cm大の結節に対する治療目的で中南病院に入院した。30年来の高血圧、2型糖尿病の治療歴があった。術後の集中治療の甲斐なく、患者の状態は悪化し、死亡した。その後の追跡調査により、この患者は後に診断がついた新型コロナウイルス感染症患者と同じ病室に入院していたことが明らかとなった。

 2人目の患者は73歳の男性で、右肺中葉の小腫瘤に対して、肺がん切除術を希望していた。20年来の高血圧治療歴があった。術後9日目に発熱、乾性咳嗽、胸部絞扼感、筋肉痛が出現した。CoVID-19のPCR検査を行ったところ陽性だった。その後徐々に病状が改善し、感染症病床で20日間の治療を受けたのちに退院した。

 これら2人の患者の臨床経過は(肺がん切除例であることを除けば)武漢におけるCoVID-19アウトブレイクの早期相における典型例である。この期間に、武漢市内の病院では相当数の医療従事者がCoVID-19に感染し、入院患者もまた不明な感染源に暴露されることにより院内感染の犠牲となった。今回の報告により、臨床症状が出る何日も前から早期の病理所見が出ていることは、CoVID-19の長期にわたる潜伏期間(通常は3-14日間)と符合する。

 CoVID-19の潜伏期間は長いため、今回のアウトブレイクの早期相において感染拡大を抑え込むのは困難で、十分な防護体制を整えずに診療を開始した武漢市内の多くの医療従事者もCoVID-19に感染したとXiaoはコメントしている。今日までに、武漢市内で15人以上の医師がCoVID-19感染症により死亡した。

 Xiaoらの研究グループは、引き続きCoIVD-19感染症により死亡した患者の病理解剖の所見等についても検討を行っている。