プラチナ併用療法+抗VEGF抗体+PD-L1抗体=?

 2016年末は、KEYNOTE-024とCheckMate-026の話題で暮れていった。

 今年はIMpower150で暮れていく。

 Atezolizumab+カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブという、国民医療費をさらに跳ね上げて末梢神経障害に苦しむ患者を大量生産しそうな治療の話題だが、免疫チェックポイント阻害薬関連の話題であるにも拘らず、無増悪生存期間がハザード比0.62と結構な差で、それもバイオマーカー関係なしに延びている。

 CheckMate-153試験もきっとそうなると思うが、本試験もきっと、さらに大きな差で全生存期間が延びることだろう。

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e916533.html

 経済的毒性のことはさておくとして、以下に述べる識者のコメントはもっともだと思う。

 ペンブロリズマブの初回治療は瞬く間に普及したが、果たしてこの治療はどう扱われるか。

 全生存期間の結果が出てからのお楽しみだが、心の準備だけはしておかねば。

Primary PFS and safety analyses of a randomized phase III study of carboplatin + paclitaxel +/− bevacizumab, with or without atezolizumab in 1L non-squamous metastatic NSCLC (IMPOWER150)

M. Reck, M.A. Socinski, F. Cappuzzo, et al.

ESMO Immuno Oncology Congress 2017, LBA1_PR

背景:

 抗PD-L1抗体であるAtezorizumabはPD-L1に作用してPD-1とB7.1への結合を阻害し、抗腫瘍免疫を再構築する。ベバシズマブはVEGFによる免疫抑制を阻害し、T細胞の腫瘍浸潤を促すことによりAtezolizumabの活性を増強するかもしれない、とされている。IMpower150試験では、未治療進行非扁平上皮非小細胞肺癌に対して、カルボプラチン+パクリタキセル±ベバシズマブ併用療法に対するAtezolizumabの上乗せ効果を検証した。

方法:

 1202人の患者が、Atezolizumab 1200mg+カルボプラチン 6AUC+パクリタキセル 200mg/?の併用療法(A群)か、Atezolizumab+ベバシズマブ 15mg/kg+カルボプラチン+パクリタキセル併用療法(B群)か、あるいはベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル併用療法(C群)かに割り付けられた。各治療は3週ごとに、主治医判断で4-6コースまで施行され、終了後はそれぞれAtezolizumab単剤、Atezolizumab+ベバシズマブ併用、あるいはベバシズマブ単剤の維持療法に引き継がれた。主要評価項目は?EGFR遺伝子変異もしくはALK融合遺伝子のいずれも認めない患者群(WT群)における無増悪生存期間と、?WT群のうち腫瘍内エフェクターT細胞関連遺伝子発現を伴うサブグループ(Teff-WT)における無増悪生存期間、ならびに?WT群における全生存期間とし、今回は最短経過観察期間9.5ヶ月に相当する2017年9月15日時点をデータカットオフとし、B群とC群を比較した。事前に設定された統計手順に基づいて、今回はA群とC群の比較は行わなかった。

結果:

 WT群として、B群に356人、C群に336人が割り付けられた。年齢中央利は63歳、過去に喫煙歴のある患者が各群とも60%を占めていた。男性がそれぞれ61%と62%、ECOG-PS0がそれぞれ39%と43%だった。C群に対するB群のPFSにおけるハザード比はWT群全体の解析では0.62(95%信頼区間は0.52-0.74, p<0.0001)で、Teff-WT群では0.51(0.38-0.68, p<0.0001)だった。WT群においては、無増悪生存期間中央値はB群で8.3ヶ月、C群で6.8ヶ月で、Teff-WT群における無増悪生存期間中央値はB群で11.3ヶ月、C群で6.8ヶ月だった。無増悪生存期間におけるB群の有意性はPD-L1免疫染色の程度によらず認められ、PD-L1陰性群においてすら有意差がついた(TC 0/IC 0において、ハザード比0.77、95%信頼区間は0.61-.099)。B群とC群の間で、有害事象に目立った差異はなく、治療関連の重篤な有害事象はそれぞれ25%、19%の頻度だった。

結論:

 IMpower150は、Atezolizumab+ベバシズマブ+化学療法がベバシズマブ+化学療法と比較して統計学的有意に、なおかつ臨床的に意義のある無増悪生存期間延長効果を示すことを立証した初の第III相試験である。

識者のコメント:

 WT群における結果を見ると、無増悪生存期間のハザード比は0.62と有望である一方、無増悪生存期間中央値には2ヶ月未満の差しかない。しかし、免疫チェックポイント療法の上乗せ効果は治療経過が長くなるほど顕著に現れる。12ヶ月無増悪生存割合を比べると、C群では18%に留まるが、B群では37%に及び、ちょうど2倍である。この臨床的な意義は大きい。バイオマーカー陰性の患者群において、1年生存割合に2倍の差がつくのは、前例のない出来事だ。

 さらに重要なことは、こうした免疫チェックポイント療法の優位性は、PD-L1発現や腫瘍内エフェクターT細胞関連遺伝子発現によらないことだ。免疫チェックポイント阻害薬単剤療法では、PD-L1発現の程度によって患者選択を行う必要があったが、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法を併用する場合にはバイオマーカーによる患者選択の必要がなくなる。これは、実地臨床においてはときに厄介なバイオマーカー探索をすることなしに、より多くの患者がこの治療の恩恵を得られる可能性を示している。全生存期間についての中間解析結果も有望と聞き及んでいるが、これはまだデータが未成熟なため、結果が出てくるのを辛抱強く待たなければならない。