新型コロナウイルス感染症

 新型コロナウイルス感染症が世界的な広がりを見せている。

 肺がん領域には直接関係ないよね、とも言っていられなくなった。

 個室に入院している肺がん患者から、

 「インフルエンザや新型コロナウイルスが怖いので、家族以外は原則面会謝絶にしてください」

という要望があった。

 ペンブロリズマブ使用後の薬剤性肺障害に対してステロイドを服用しており、肺がん罹患者であることも相まって、易感染宿主であることは間違いない。

 ごもっともということで、対応を続けている。

 世間では活発に報道がなされており、震源地である中国本土でも、その他の国でも、患者が増え続けている。

 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200202-00000026-jij-cn

 おそらく中国では、一般診療にあたるのが精いっぱいで、精密検査をすればさらに多くの患者が診断されるだろう。

 実際に、自分の外来に患者が来たときに適切に診断できるかといわれると、検査キットすら手元にない状況で、全くもって無理である。

 今回、N Engl J Med誌に寄稿されていたドイツからの報告を読んで、心底そう思った。

 早い話が、検査手段が普及していない、特異的な治療方法のない、新型インフルエンザみたいなものだ。

 肺炎を発症して呼吸不全にでも陥っていない限り、一般診療ではインフルエンザと見分けがつかない。

 ましてや、若い人のインフルエンザを疑ったら、インフルエンザの検査すらしなくてもいいという意見もある中だ。

 インフルエンザの検査はしなくてもいいけど、コロナウイルスの検査は全例しましょうね、という話にならない。

 保健所がパンクするのは目に見えているし、検査結果が判明するまで患者を院内に留め置くこともできない。

 今回の著者が最後に言及しているように、いかに軽症者を感染源にしないように適切に外来管理するかが肝要だ。

 そして、感染しないように、不要不急の外出はしない、不特定多数が出入りする閉鎖空間内に30分以上滞在しない、外出から帰ってきたら速やかに手洗い・うがいをする、食後はきちんと歯磨きをする、など、予防的な対策を愚直に続けるのが、我々一般市民にできる最大の対策だろう。

Transmission of 2019-nCoV Infection from an Asymptomatic Contact in Germany

Camilla Rothe, M.D.et al.

N.Engl J Med. January 30, 2020

DOI: 10.1056/NEJMc2001468

中国の武漢市で発生した新型コロナウイルス(2019-nCoV)は、ウイルスの世界各地への広がりとともに、医療界の関心を呼んでいる。2019年12月下旬に本ウイルスが同定されてから、中国から他国へと広がった感染者は増え続けており、流行拡大の様相は日々変わり続けている。今回、アジア圏外で、まだ発症しておらず潜伏期間中であった発端者から、ヒト-ヒト感染を起こしたケースについて報告する。

 2020年1月24日、健康な33歳のドイツ人ビジネスマン(patient 1)がのどの痛み、寒気、筋肉痛で体調を崩した。あくる日、39.1℃まで発熱し、痰が絡む咳をし始めた。翌日の夕方までに体調は回復し、1月27日には職場に復帰した。

 発症前の1月20日と21日、ミュンヘン近郊の彼の職場において、彼は中国人のビジネスパートナーとともに会議に参加していた。このビジネスパートナーは上海在住で、1月19日から22日までドイツを訪れていた。この滞在期間中、彼女は感染の兆候も症状もなく健康に過ごしていたのだが、中国へ帰る機内で体調を崩し、2019-nCoVに感染していることが1月26日に検査で確認された(index patient 1)。

 1月27日、彼女は職場にこのことを報告した。接触者調査が開始され、上記のドイツ人ビジネスマンは精密検査のためにミュンヘン市内の感染症・熱帯医学研究部門に送られた。この時点では、彼は熱もなく、元気に過ごしていた。発症した時点で、彼には特段の既往歴も合併症もなく、2週間以内に外国を旅行した渡航歴もないとのことだった。鼻腔ぬぐいサンプルを2回分、痰のサンプルを1回分採取し、いずれも定量的RT-PCR法により2019-nCoV陽性であることが確認された。後日、改めてサンプルを採取して検査したところ、最後に検査した1月29日の段階ではウイルス量が増えており、彼の痰から108コピー/mlのウイルスRNAが検出された。

 1月28日、彼の会社内で、さらに3人の職員が2019-nCoV陽性と確認された(patient 2,3,4)。この3人のうち、patient 2のみが上記の中国人女性と直接の接触があったが、のこる2人はpatient 1としか接触がなかった。保健当局の発表によると、patients 1,2,3,4は全て経過観察と隔離の目的でミュンヘン市内の感染症管理ユニットに入院した。今のところ、この4人には深刻な病状は認められない。

 今回報告したケースは、ドイツ国内で診断され、アジア圏の外で伝播した。しかしながら特筆すべきことは、発症後も短期間の非特異的な症状しか認められなかった発端者から、それも潜伏期間中に他者へ感染が広がったことである。

 無症候性キャリアが2019-nCoVの感染源になりうるという事実は、現在のアウトブレイクの感染拡大経路を再確認する必要性を我々に示している。回復期の患者(patient 1)の痰に多数の2019-nCoVウイルスRNAが検出されたこと、すなわち、病状が回復した患者も長期的に感染源となりうることに留意しなければならない。一方で、定量的RT-PCRで確認されたウイルスRNAが、実際に感染力を持ったウイルスが痰の中に含まれていることを裏付けている(もしかしたら、回復期の患者から検出されたウイルスRNAは、患者の免疫応答の結果既に感染力を失ったウイルスによるものなのかもしれない)のかどうかは、ウイルス培養によってより直接的に確認されなければならない。

 こうした関心をよそに、感染症管理ユニットに収容された4人の感染者は、いずれも症状軽微な患者で本来は入院の必要性は乏しく、主に公衆衛生的な(感染拡大抑止の目的で)入院している。医療機関の収容能力には限りがある・・・とりわけ、北半球では今まさにインフルエンザの流行シーズンにある・・・ため、こうした軽症患者を適切なガイドラインや監視体制にそって病院外で管理しうるかどうか、判断する必要がある。