当直勤務していたら、脳梗塞後の患者さんが嘔吐しているので診てほしいと依頼され、ベッドサイドに行ってみました。
患者さんはほぼうつぶせになって、緑色の吐物を断続的に吐いておられます。
便秘がひどくなるといつもこうなり、自然に収まるまではそうしているしかないのだとか。
紹介元の病院からの診療情報提供書を見ると、こうした症状としゃっくりが転院前から続いていて、原因ははっきりわからなかったそうです。
つらい記憶がよみがえりました。
今の職場に異動して間もないころ、同じように当直をしていた夜、脳出血後遺症の60代男性が急変しました。
脳出血を起こした後、胃瘻造設、気管切開を施されて長期床上臥床状態(早い話が寝たきり)で経過観察されていたのですが、断続的なしゃっくりが続いていました。
しゃっくりとともにときに噴水状の嘔吐を起こし、この夜もその吐物を(気管切開されているにもかかわらず)大量に誤嚥して、急性呼吸不全に陥ったのです。
夜中に人工呼吸管理を開始することになり、翌朝「私、人工呼吸管理できないんで、後の管理はよろしくね」と年配の先生に担当医引継ぎを頼まれ、結局そのまま数年を経過し、今日に至っています。
終わりのないしゃっくり(吃逆、「きつぎゃく」と読む)、繰り返す誤嚥性肺炎、外しては装着を繰り返す人工呼吸管理、果てなき褥瘡との戦い、全てに終止符を打ってくれたのは、「柿の蔕(かきのへた)」でした。
薬剤部にお願いして柿の蔕を取り寄せて、給食室で煎じてもらい1日3回胃瘻から注入し始めたらしゃっくりと噴水状嘔吐が止まり、それから徐々に全身管理がうまくいくようになりました。
今はどうかわからりませんが、私が修行していた当時、がんセンターには「シテイ液」という約束処方がありました。
化学療法を行うとしばしば患者さんにしゃっくりが起こりますが、「シテイ液」はしゃっくりの特効薬であると上司に教えられました。
確かによく効きます。
冷たい水を飲む(興味深いことに、当時のがんセンターの看護研究の中には、「化学療法に惹起されたしゃっくりを冷たい水の一気飲みで止めることの有効性を検証する臨床試験」というのもありました)とか、息を止めて我慢するとかの民間療法よりも信頼がおけました。
後で調べてわかったのですが、シテイというのは、漢字で書けば「柿蔕」であり、シテイ液は柿の蔕を煎じた液だったのです。
柿蔕はれっきとした漢方製剤であり、以下のウチダ和漢薬が取り扱っています。
https://www.uchidawakanyaku.co.jp/kampo/tamatebako/shoyaku.html?page=102
今回診療した患者さんにも、試しに柿の蔕を処方しておきました。
しゃっくりと嘔吐が止まってくれたらいいのですが。