・EGFRエクソン20挿入変異とsunvozertinib

 

 オシメルチニブの構造を土台として、側鎖に操作を加えてEGFRエクソン20挿入変異に有効な治療薬を開発するというコンセプトで見いだされたsunvozertinibというお薬、今年のASCOで報告されていました。関連した論文に詳しい内容が記載されていましたので読んでみました。

 以下の3点をポイントだと感じました。

 

 

1.sunvozertinibはオシメルチニブを土台として、EGFRエクソン20挿入変異に対する阻害活性を持たせた分子標的薬

 

2.EGFRエクソン20挿入変異を有し、標準治療施行済みの進行非小細胞肺がん患者さんに対する奏効割合は45%程度、無増悪生存期間は少なくとも4ヶ月超

 

3.2.のうち、脳転移を有する患者さんでの奏効割合は30%程度、amivantamab治療歴を有する患者さんでの奏効割合は50%程度

 

 

 

 

Antitumor activity of sunvozertinib in NSCLC patients with EGFR Exon20 insertion mutations after platinum and anti-PD(L)1 treatment failures.

 

Pasi A. Janne et al.

2022 ASCO Annual Meeting abst.#9015

DOI: 10.1200/JCO.2022.40.16_suppl.9015

 

 

Sunvozertinib, a Selective EGFR Inhibitor for Previously Treated Non-Small Cell Lung Cancer with EGFR Exon 20 Insertion Mutations

Mengzhao Wang et al.
Cancer Discov. 2022 Jul 6;12(7):1676-1689. 
doi: 10.1158/2159-8290.CD-21-1615.

 

要約:
 上皮成長因子受容体エクソン20挿入変異(EGFRexon20ins)は非小細胞肺がん患者全体の約2%に認められる。有効な治療薬がなく、一般に予後不良である。sunvozertinib(DZD9008)は経口投与の非可逆性選択的EGFRチロシンキナーゼ阻害薬としてデザインされた薬であり、EGFRexon20insやその他のEGFR変異陽性非小細胞肺がんに対して抗腫瘍活性を示す。腫瘍細胞株を用いた実験、あるいは動物モデルを用いた実験で、sunvozertinibは抗腫瘍活性を示した。現在進行中の2件の第I相臨床試験において、sunvozertinibは最高400mg1日1回投与までは忍容可能だった。頻度の高い治療関連有害事象は下痢と発疹だった。脳転移を有する患者、amivantamab治療歴を有する患者など、様々な背景を持つEGFRexon20ins陽性非小細胞肺がん患者において、sunvozertinib100mg以上を投与した患者集団では抗腫瘍活性が認められた。解析時点で、奏効持続期間は中央値に達していなかった。

 

Wangらの論文より、第I相臨床試験部分に関する記載の抜粋:

 sunvozertinibに関しては、2件の第I相臨床試験が進行中である。WU-KONG1試験は米国、豪州、韓国、台湾で、WU-KONG2試験は中国で計画された。標準治療施行後に病勢進行に至ったEGFR遺伝子変異(エクソン20挿入変異を含む)あるいはHER2遺伝子変異を有する局所進行/進行非小細胞肺がん患者で、測定可能病変を有する患者を対象とした。脳転移を合併していても、病状が安定していて症状を伴わない場合は参加可能とした。WU-KONG1試験、WU-KONG2試験は同様の試験デザインであり、安全性、薬物動態、抗腫瘍活性については統合解析を行うことになっていた。2019年7月9日から2021年04月03日までの間に、102人の患者にsunvozertinibが使用された。WU-KONG1試験には54人、WU-KONG2試験には48人が参加した。43人が用量漸増コホートに、54人が拡大コホートに、5人が食物相互作用検証コホートに組み入れられた。102人中62人(60.8%)がEGFRエクソン20挿入変異を有していた。2021年04月03日までに用量漸増コホートへの患者集積は完了し、拡大コホートと食物相互作用検証コホートは患者集積を継続している。用量漸増コホートでは、50mg、100mg、200mg、300mg、400mgの1日1回投与が用量レベルとして設定された。安全性、忍容性、薬物動態、有効性指標から200mg、300mg、400mgを拡大コホートの設定用量として採用した。データカットオフ時点で、用量漸増コホートのうち6人、拡大コホートのうち28人、食物相互作用検証コホートのうち3人はsunvozertinib内服を継続していた。

 本試験に参加した患者の年齢中央値は59歳、102人中57人(55.9%)は女性で、101人(99%)のECOG-PSは1以下だった。前治療歴中央値は3レジメン(1-10)で、93人(91.2%)は少なくとも1レジメンの化学療法を受けていた。ドライバー遺伝子変異の内訳は、EGFRエクソン20挿入変異62人(61%)、EGFRエクソン19欠失変異もしくはエクソン21L858R変異4人(4%)、EGFRエクソン20T790M耐性変異1人(1%)、EGFRエクソン19欠失変異もしくはエクソン21L858R変異とEGFRエクソン20T790M耐性変異の併存6人(6%)、EGFR uncommon変異1人(1%)、HER2エクソン20挿入変異28人(28%)だった。

 用量漸増コホートにおいて、sunvozertinibは最高400mgまで投与可能だった。2人の患者で用量制限毒性を認めた。1人は300mgを使用した患者で、grade3の下痢ののち、呼吸促拍症候群に陥った。もう1人は400mgを使用した患者で、grade3の不整脈を認めた。用量漸増コホート全体では、34人(33.3%)の患者がなんらかのgrade3以上の治療関連有害事象を経験した。治療中断を要したのは24人(23.5%)、用量減量を要したのは16人(15.7%)、治療中止を要したのは6人(5.9%)だった。55人(53.9%)に下痢を、41人(40.2%)に皮疹を認めたが、grade3以上の下痢は5人(4.9%)のみで、grade3以上の皮疹は認めなかった。用量漸増コホートにおける安全性評価に基づき、sunvozertinibの最大耐用用量は400mgと定め、200mg、300mg、400mgの用量で拡大コホートを設定した。

 腫瘍縮小効果判定可能だったEGFRエクソン20挿入変異陽性患者56人のうち、部分奏効(PR)は100mg以上のsunvozertinibを服用していた患者で確認された。全体として最良総合効果がPR相当だった患者割合は41.1%で、奏効割合は37.5%だった。第II相試験の推奨用量である200mg、300mgの用量コホートでは、奏効割合はそれぞれ45.5%、41.9%だった。拡大コホートにおける奏効割合は44.7%だった。部分奏効は、脳転移を有する患者やamivantamab治療歴を有する患者でも認められた。奏効持続期間に関するデータカットオフ時点までの追跡期間中央値は4.2ヶ月で、奏効持続期間はまだ中央値に達しておらず少なくとも3.5ヶ月超で、最も長期の患者では8ヶ月超、PRに至った23人中15人(65.2%)はプロトコール治療を継続しており、奏効を維持していた。全体の追跡期間中央値は5.6ヶ月で、無増悪生存期間はまだ中央値に達しておらず、少なくとも4ヶ月超だった。