・重症市中肺炎治療とヒドロコルチゾン

 

 肺がん診療とは直接関係のない話なのですが、肺炎治療後のリハビリ目的で転院して来られる患者さんの治療経過を見ていると、抗菌薬にステロイドを併用されている方がずいぶん増えたなあという印象を受けます。

 今回取り上げる論文の影響もあるのかもしれませんが、新型コロナウイルス感染症の治療を担う中で、肺炎急性期にステロイドを併用することの心理的ハードルが我々医療従事者の中でかなり低くなったような気がしています。

 また、新型コロナウイルス感染症寛解期に間質性肺炎様の病態が再燃し、ステロイド再投与を余儀なくされることが少なからずありましたし、現在担当している入院患者さんにもそうした方はいらっしゃいます。

 不思議と新型コロナウイルスワクチン未接種者が多い印象です。

 従来亜急性期の間質性肺炎と考えられていた患者さんの一定数は、ウイルス関連のこうした病態なのかもしれません。

 

 

 

 

Hydrocortisone in Severe Community-Acquired Pneumonia

 

Pierre-François Dequin et al.
N Engl J Med. 2023 May 25;388(21):1931-1941. 
doi: 10.1056/NEJMoa2215145. Epub 2023 Mar 21.

 

背景:

 糖質コルチコイドの抗炎症・免疫調整作用が重症市中肺炎患者の死亡率を低下させるかどうかははっきりしていない。

 

方法:

 今回の多施設共同二重盲検無作為化第III相比較試験において、重症市中肺炎の治療目的で集中治療室に入院した患者を対象に、ヒドロコルチゾン投与群(HC群、ヒドロコルチゾン200mg/日を臨床経過を参考に4日間あるいは7日間投与し、以後は漸減して8日間あるいは14日間で終了する)とプラセボ群に無作為割り付けした。抗菌薬や支持療法といった標準的治療は両群ともに適用した。主要評価項目は28日経過時点での死亡数とした。

 

結果:

 計800人の患者が無作為割り付けされ、2回目の中間解析時点で試験は中止となった。795人の患者データが解析された。治療開始から28日時点で、HC群400人のうち死亡数は25人(6.2%、95%信頼区間3.9-8.6)、プラセボ群395人のうち死亡数は47人(11.9%、95%信頼区間8.7-15.1)で、死亡率の差は5.6%、95%信頼区間は1.7-9.6%、p=0.006だった。治療開始時点で人工呼吸管理をされていなかった患者集団において、HC群では222人中40人(18.0%)が、プラセボ群では220人中65人(29.5%)が気管内挿管を施行された(ハザード比0.59、95%信頼区間0.40-0.86)。治療開始時点で昇圧薬を使用されていなかった患者集団において、HC群では359人中55人(15.3%)が、プラセボ群では344人中86人(25.0%)が、28日経過時点までに昇圧薬投与を受けていた(ハザード比0.59、95%信頼区間0.43-0.82)。院内感染合併割合、上部消化管出血合併割合は両群とも同等だった。治療開始からの1週間において、HC群ではより多量のインシュリン投与を受けていた。

 

結論:

 集中治療室で治療を受ける重症市中肺炎の患者においては、ヒドロコルチゾンを使用された患者の方がそうでない患者よりも28日経過時点での死亡リスクが低下していた。