・トラスツズマブデルクステカン(T-DXd)、HER2変異陽性非小細胞肺がん適用承認

 

 2023年08月23日付で、トラスツズマブデルクステカン(T-DXd)が「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」に対して使用可能となりました。

 肺がん領域ではじめて適用される抗体薬物複合体、ということになります。

 詳細は第一三共株式会社による以下のプレスリリースをご参照ください。

20230823_J.pdf (daiichisankyo.co.jp)

 

 また、T-DXdを使用するにあたってのコンパニオン診断として、「オンコマインDx Target TestマルチCDxシステム」が適応を取得しています。これは、T-DXdを使用するにあたっては、腫瘍組織生検が前提であること、血液・胸水・脳脊髄液といった液性サンプルではHER2遺伝子変異を検索できないことを意味します。

コンパニオン診断システムについて、一部変更承認を取得 | Thermo Fisher Scientific - JP

「オンコマイン Dx Target Test マルチ CDxシステム」非小細胞肺がんを対象としたHER2(ERBB2)遺伝子変異に対するコンパニオン診断システムとして保険適用取得のお知らせ | Thermo Fisher Scientific - JP

 

 

 HER2遺伝子変異陽性の進行・再発非小細胞肺がんに対するT-DXdの有効性を検証した第II相DESTINY-01試験では、91人の患者さんを対象に体重1kgあたりT-DXd 6.4mgを3週間ごとに使用しました。奏効割合は55%、奏効持続期間中央値は9.3ヶ月、無増悪生存期間中央値は8.2ヶ月、生存期間中央値は17.8ヶ月と報告されていました。有効性は高いものの副作用もまた強く、Grade 3以上の薬剤関連有害事象は患者の46%に、そのうち薬剤性肺障害は24人(26.4%)の患者に認められ、17人(18.7%)の患者が治療中止を余儀なくされ、2人(2.2%)は肺障害により死亡しました。

oitahaiganpractice.hatenablog.com

 

oitahaiganpractice.hatenablog.com

 

 T-DXdによる薬剤性肺障害は問題視されていて、日本臨床腫瘍学会経由で以下のような注意喚起文書が届いていました。具体的に本薬品を適用可能な施設要件・医師要件が規定されていますが、なかでも「肺拡散能力(DLco)等の検査の実施が可能である」というくだりは精密呼吸機能検査が可能な医療機関ということであり、文言通りに受け取るならばかなり厳しい(もしかしたら、相当数のがんセンターは適用可能となり得ない)ように感じました。

https://www.jsmo.or.jp/file/dl/newsj/3464.pdf

 

 適正使用ガイドも閲覧可能です。

エンハーツ適正使用ガイド (pmda.go.jp)

 

 

 今回は、昨年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で報告された、T-DXdの投与量を減らしたら副作用が低減できるかどうかを検証したDESTINY-Lung02試験について取り上げます。更新される添付文書には、本試験のデータが引用されているようです。これを受けて、通常投与量は5.4mg/kgを3週間間隔で使用すると規定されています。

 

 

 

LBA55 Trastuzumab deruxtecan (T-DXd) in patients (Pts) with HER2-mutant metastatic non-small cell lung cancer (NSCLC): Interim results from the phase 2 DESTINY-Lung02 trial

 

K.Goto et al.
ESMO 2022. Abst.#LBA55
DOI:https://doi.org/10.1016/j.annonc.2022.08.057

 

背景:

 DESTINY-Lung01試験において、HER2遺伝子変異(HER2m)陽性既治療非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対しHER2蛋白質を標的とした抗体薬物複合体であるT-DXdを6.4mg/kgで投与することにより、持続的な有効性が示された(Li et al., N Engl J Med 2022)。DESTINY-Lung02試験はHER2m陽性既治療NSCLC患者を対象に、T-DXd 5.4mg/kgもしくは6.4mg/kgの投与量で治療し、有効性と安全性を評価した。今回はその中間解析結果を報告する。

 

方法:

 本試験は盲検ランダム化第II相試験であり、各群の有効性・安全性を比較するものではない。適格患者はT-DXd 5.4mg/kgを3週間に1度使用する群(5.4群)とT-DXd 6.4mg/kgを3週間に1度使用する群(6.4群)に対して、2:1の割合で無作為割り付けされた。主要評価項目は確定奏効割合(cORR)とし、効果判定は独立効果判定委員会(BICR)により行われた。副次評価項目にはBICR評価による奏効持続期間、確定病勢コントロール割合(cDCR)、安全性を含めた。早期組み入れコホート(the prespecified early cohort, PEC、無作為割り付けからデータカットオフ時点まで4.5ヶ月以上経過している患者集団)は、プロトコール治療開始後に効果判定施行済みの患者を含むように定義した。安全性評価コホート(the safety analysis set, SAS)は無作為割り付け後にT-DXdを1度でも使用した患者全てを対象とした。本試験は、5.4群と6.4群の有効性・安全性を統計的に比較できるような設定にしていない。

 

結果:

 2022/03/24のデータカットオフ時点で、PECでは5.4群52人、6.4群28人が、SASでは5.4群101人、6.4群50人が割り付けられていた。追跡期間中央値はPECでは5.4群5.6ヶ月、6.4群5.4ヶ月、SASでは5.4群3.8ヶ月、6.4群3.9ヶ月だった。PECにおいて、cORRは5.4群53.8%(95%信頼区間39.5-67.8)、6.4群42.9%(95%信頼区間24.5-62.8)だった。治療関連有害事象はPECでもSASでも、6.4群で高率だった。SASにおいて、T-DXdによる薬剤性肺障害は5.4群で5.9%、6.4群で14.0%に認められた。

 

結論:

 DESTINY-Lung02試験において、HER2m陽性NSCLCのPECコホートにおいてT-DXdは5.4mg/kg、6.4mg/kgいずれの使用量でも臨床的に意味のある有効性を示した。加えて5.4mg/kgの方がより安全性が高かった。

 



 2023/09/11付でDESTINY-Lung02試験が論文化されていました。

 観察期間が2022/12/23まで延長されています。それに伴い有効性、安全性データ共に変化があります。我が国では5.4mg/kgの用量で使用することが規定されているのでそちらのデータを踏まえておくことが大切なのですが、大雑把に言えば腫瘍が半分程度に縮む患者さんの割合が50%、その効果が続く期間が17ヶ月、早めの対応が必要な副作用が40%に見られ、薬剤性肺障害が13%で発生する、ということです。

 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の薬剤性肺障害出現率が多く見積もっても5%程度であることを踏まえると、T-DXdの13%というのはかなり高い数字です。

 

 

 

Trastuzumab Deruxtecan in Patients With HER2-Mutant Metastatic Non-Small-Cell Lung Cancer: Primary Results From the Randomized, Phase II DESTINY-Lung02 Trial

 

Koichi Goto et al.
J Clin Oncol. 2023 Sep 11;JCO2301361. 
doi: 10.1200/JCO.23.01361. Online ahead of print.

 

目的:

 トラスツズマブデルクステカン(T-DXd)を5.4mg/kgと6.4mg/kgの用量で使用すると様々ながん種で確固とした抗腫瘍効果を発揮することが示されているが、HER2遺伝子変異陽性(HER2m)既治療進行非小細胞肺がん(mNSCLC)に対し、T-DXdを5.4mg/kgで使用した場合どうなるかはまだ示されていない。

 

方法:

 DESTINY-Lung-2試験は多施設共同盲検第II相試験で、プラチナ併用化学療法を含む既治療HER2m-mNSCLCに対するT-DXd 5.4mg/kg3週ごと投与について初めて評価した。さらには、T-DXd 6.4mg/kg3週ごとについても評価した。主要評価項目はRECIST v1.1準拠の奏効割合とし、独立効果判定委員会で評価した。

 

結果:

 152人の患者が5.4mg/kg群と6.4mg/kg群に2 : 1の割合で無作為に割り付けられた。2022/12/23までの時点で、追跡期間中央値は5.4mg/kg群で11.5ヶ月(1.1-20.6)、6.4mg/kg群で11.8ヶ月(0.6-21.0)だった。5.4mg/kg群と6.4mg/kg群の各臨床データは以下の通り;確定奏効割合49.0%(95%信頼区間39.0-59.1)vs 56.0%(95%信頼区間41.3-70.0)、奏効持続期間中央値16.8ヶ月(95%信頼区間6.4-未到達)vs 未到達(95%信頼区間8.3-未到達)、治療継続期間中央値は7.7ヶ月(0.7-20.8)vs 8.3ヶ月(0.7-20.3)、Grade3以上の治療関連緊急性有害事象は39/101(38.6%)vs 29/50(58.0%)、薬剤性肺障害は13/101(12.9%)vs 14/50(28.0%)で、そのうちGrade3以上と判定されたのは各群2.0%ずつだった。

 

結論:

 T-DXdは臨床的に意味のある抗腫瘍効果を5.4mg/kgと6.4mg/kgのいずれの用量でも示した。安全性は受け入れ可能、対処可能なものだったが、5.4mg/kgの方がより安全性が高かった。