・胞巣状軟部肉腫(Alveolar Soft Part Sarcoma)とアテゾリズマブ

 

 Alveolar Soft Part Sarcoma・・・。

 肺がん診療に携わっている専門医ですら、その大半はこの病名を耳にしたこともないのではないでしょうか。

 15年前、たくさんの胸部悪性腫瘍が集まる修行先に身を置いていた2年間でも、この腫瘍に接したのはわずかに1回きりでした。

 当時は、外科切除した肺をホルマリン漬けにして薄切りにしては、顕微鏡を覗いて診断をつける毎日を過ごしていましたが、同僚のひとりが偶然行き当たったのがこの腫瘍でした。

 診断にお墨付きをつけてくださる上司も、たしか他施設の医師にも意見を求めるなどして最終診断を下していたように思いますし、呼吸器系診療科で共有するために、後日勉強会が催されました。

 久しぶりに勉強しようとWHO Classification of Tumors, Thoracic Tumours, 5th editionの索引を紐解きましたが、残念なことに本腫瘍は扱われていませんでした。 

 そんな珍しい腫瘍に対してアテゾリズマブが有効であること、そのことがNew England Journal of Medicine誌に取り上げられることが二重に目を引き、思わず記事として取り上げてしまいました。

 

 

 

 

Atezolizumab for Advanced Alveolar Soft Part Sarcoma

 

Alice P Chen et al.
N Engl J Med. 2023 Sep 7;389(10):911-921. 
doi: 10.1056/NEJMoa2303383.

 

背景:

 胞巣状軟部肉腫(Alveolar soft part sarcoma, ASPS)は稀な軟部組織肉腫であり、予後不良で確立された治療法もない。最近、本腫瘍に対し免疫チェックポイント阻害薬が有効であると報告された。

 

方法:

 進行ASPSに罹患した患者を対象に、抗PD-L1抗体であるアテゾリズマブを適用する医師主導・多施設共同・単アーム第II相試験を計画した。18歳未満の患者では体重1kgあたり15mg、最大1,200mgを、18歳以上の患者では一律1,200mgのアテゾリズマブを21日間隔で投与した。評価項目には奏効割合、奏効持続期間、無増悪生存期間を設定し、RECIST 1.1版に準拠した。同様に多段階の薬物反応に関わる薬物動態学的バイオマーカーについても検索した。

 

結果:

 計52人の患者について評価した。奏効割合は19/52(37%)で、完全奏効1人、部分奏効18人の内訳だった。奏効までの期間中央値は3.6ヶ月(2.1-19.1)で、奏効持続期間中央値は24.7ヶ月(4.1-55.8)、無増悪生存期間中央値は20.8ヶ月だった。7人の患者では2年間の治療後に休薬期間を設けたものの、奏効状態はデータカットオフ時点まで維持されていた。grade4-5の治療関連有害事象は認めなかった。腫瘍のPD-1、PD-L1発現状態はさまざまだったが、それとは関係なく有効性が認められた。

 

結論:

 進行ASPSの患者の約1/3に対し、アテゾリズマブは有効であり、持続的な腫瘍制御効果をもたらした。