・第III相LIBRETTO-431試験・・・RET肺がんにセルペルカチニブが有効なのは間違いないけれど・・・

 

 RET肺がんの義父がセルペルカチニブを使い始めたのが2021年のクリスマス。

 もうすぐ丸2年を迎えようとしています。

 これまで過敏症症状、下肢深部静脈血栓からの重症肺血栓塞栓症合併などに悩まされました。

 無増悪生存中、とはいきませんが、それでも2020年クリスマスイブの確定診断からもうすぐ丸3年、どうにか来る年のお正月を迎えられそうです。

 義父は一次治療でカルボプラチン+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用療法、いわゆるKEYNOTE-189療法を受けて、二次治療ではドセタキセル+ラムシルマブ併用療法、三次治療ではS-1単剤療法を行いましたので、LIBRETTO-431試験の対照群よりも濃厚に前治療を受けたことになります。

 本試験の結果を眺めてみて興味深いのは、セルペルカチニブの有効性が高いのは当然のこととして、対照群の治療もなかなか有効だ、ということです。

 進行RET肺がんに対し、無増悪生存期間中央値が11ヶ月強、奏効割合65%というのはかなり有望な結果だと思うのですが、いかがでしょうか。

 

oitahaiganpractice.hatenablog.com

 

 本試験のセルペルカチニブ群では、病勢進行後もセルペルカチニブを継続(beyond PD)使用してよい規定になっていますが、結果としてそれ以外の治療機会を失い、治療全体として見たときに対照群よりも全生存期間が劣ってしまう、といったことが起こらないか、少し心配しています。

 

 

 

First-Line Selpercatinib or Chemotherapy and Pembrolizumab in RET Fusion-Positive NSCLC

 

Caicun Zhou et al.
N Engl J Med. 2023 Nov 16;389(20):1839-1850. 
doi: 10.1056/NEJMoa2309457. Epub 2023 Oct 21.

 

背景:
 セルペルカチニブは、選択性が高く中枢神経系への移行性もよいRET阻害薬で、ランダム化されていない第I-II相臨床試験において、RET融合遺伝子陽性進行非小細胞肺がんに対して有効性を示した。

 

方法:
 RET融合遺伝子陽性未治療進行非小細胞肺がん患者を対象とした今回の無作為化第III相試験において、プラチナ併用化学療法±ペンブロリズマブを標準治療として、セルペルカチニブによる一次治療の有効性と安全性を検討した。患者登録前に、もし標準治療(対照群)に割り付けられた場合にペンブロリズマブを併用するかどうか、予め担当医に決めておいてもらうことにした。主要評価項目は独立委員会判定による無増悪生存期間とした。対照群に割り付けられた場合にペンブロリズマブを併用する群(ペンブロリズマブ対照コホート)と全体コホートそれぞれで解析した。プロトコール治療中に独立委員会により病勢進行と判定されたのちであれば、対照群はセルペルカチニブを用いて治療してよい(クロスオーバーしてよい)こととされていた。

 

結果:
 212人の患者がペンブロリズマブ対照コホートにおいて無作為割付された。ペンブロリズマブ対照コホートでは、事前に設定された中間解析時点における無増悪生存期間中央値はセルペルカチニブ群24.8ヶ月(95%信頼区間16.9-未到達)、対照群11.2ヶ月(95%信頼区間8.8-16.8)、ハザード比は0.46(95%信頼区間0.31-0.70、p<0001)と有意にセルペルカチニブ群で優れていた。奏効割合はセルペルカチニブ群84%(95%信頼区間76-90)、対照群65%(95%信頼区間54-75)だった。中枢神経系イベントに関わる病勢進行イベント累積発生に関するハザード比は0.28(95%信頼区間0.12-0.88)だった。全体コホート(261人)における有効性は、ペンブロリズマブ対照コホートと同様だった。有害事象については、セルペルカチニブや対照群の治療について検証した過去の臨床試験と同様の結果が得られた。

 

結論:
 RET融合遺伝子陽性未治療進行非小細胞肺がん患者に対するセルペルカチニブの一次治療は、プラチナ併用化学療法±ペンブロリズマブの標準治療に対して、有意に無増悪生存期間を延長した。

 

本文より:
・PS 0-2の患者を対象とした
・RET融合遺伝子の有無は、次世代シーケンサーによる評価、あるいはPCRでの評価に基づいて判定した
・RET融合遺伝子の有無は、本試験登録前に本臨床試験のスポンサー企業(Loxo Oncology社とEli Lilly社)により確認された
・無症候性、ないしは少なくともランダム化2週間前まで神経学的に安定した状態であれば、脳転移合併も許容された
・本試験のデザインは、スポンサー企業(Loxo Oncology社とその親会社のEli Lilly社)と研究者が合同で行った
・セルペルカチニブ群はセルペルカチニブ160mg/回を1日2回、21日を1コースとして連日服用し、病勢進行後も担当医とスポンサーが患者に有益であると判断した場合には、セルペルカチニブを継続使用できることとした
・対照群では、ビタミン補給を行いながらペメトレキセドを体表面積当たり500mg、担当医判断に基づきカルボプラチン(5AUC、最大750mg/回)もしくはシスプラチン(体表面積当たり75mg)、ペンブロリズマブ対照コホートではさらにペンブロリズマブ200mg/回を、21日間隔で投与した
・対照群はプラチナ併用療法4コース終了後は、ペメトレキセドとペンブロリズマブを維持療法として継続使用できたが、ペンブロリズマブは最長35コースまでとされた
・割付調整因子は患者居住地(東アジア vs その他地域)、登録時の脳転移有無(無もしくは不明 vs 有)、ペンブロリズマブ併用意向の有無(有 vs 無)とした
・当初は1:1の割合で無作為割付されていたが、後にプロトコールが改訂され、セルペルカチニブ群2に対して対照群1の割合に変更されたため、最終的な全体コホートの各群比率はセルペルカチニブ群1.6:対照群1となった
・対照群の病勢進行後にセルペルカチニブにクロスオーバーすることが許容されていたが、今回の報告ではクロスオーバーした患者の有効性と安全性については触れない
・主要評価項目の無増悪生存期間は、まずペンブロリズマブ対照コホートにおいて検定し、その結果セルペルカチニブ群の優越性が確認されたら全体コホートについても検定することになっていた
・全体コホートにおける全生存期間解析は、検定においてαエラーが割り当てられる副次評価項目と規定された
有意水準0.05の両側検定で、89%の検出力でセルペルカチニブの優越性を検証するにあたり、ペンブロリズマブ対照コホートにおける無増悪生存イベントの必要数を140件と算定した
・98件の無増悪生存イベントが発生した2023/05/01のデータカットオフ時点で中間解析を行った
・中間解析時点における名目標の有意水準を0.012とした
・2020年3月から2022年8月までに、23か国、103施設から261人のRET融合遺伝子陽性未治療進行非小細胞肺がん患者が本試験に登録された
プロトコール治療開始前にセルペルカチニブ群1人、対照群4人が試験参加を取り下げ、256人がプロトコール治療を受けた(セルペルカチニブ群158人、対照群98人)
・ペンブロリズマブ対照コホートは212人(セルペルカチニブ群129人、対照群83人)だった
・参加した患者の半数以上(58%)は次世代シーケンサーによりRET融合遺伝子を検出され、検出検体の内訳は原発巣56%、転移巣33%、リキッドバイオプシー10%だった
・RET融合遺伝子のパートナーはKIF5Bが45%、CCDC6が10%だった
・42%はPCRでRET融合遺伝子が検出されたが、この集団ではRET融合遺伝子のパートナーは不明だった
プロトコール治療開始から奏効が過君されるまでの期間中央値はセルペルカチニブ群1.45ヶ月、対照群1.53ヶ月だった
・奏効持続期間中央値はセルペルカチニブ群24.2ヶ月(95%信頼区間17.9-未到達)、対照群11.5ヶ月895%信頼区間9.7-23.3)だった
・全体コホートにおける無増悪生存期間中央値は、セルペルカチニブ群24.8ヶ月(95%信頼区間17.3-未到達)、対照群11.2ヶ月(95%信頼区間8.8-16.8)、ハザード比0.48(95%信頼区間0.33-0.70、p<0.001)だった
・対照群のうち60%は病勢進行後にセルペルカチニブにクロスオーバーし、15%はクロスオーバーしなかったがプロトコール治療終了後に選択的RET阻害薬を使用した
・212人のペンブロリズマブ対照コホートのうち、192人が中枢神経系病変の定期評価対象となった(セルペルカチニブ群120人、対照群72人)
・セルペルカチニブ群の8人(7%)と対照群の13人(18%)でプロトコール治療中に中枢神経病変新規発生による増悪を来した
・中枢神経病変による病勢進行の12ヶ月累積発生割合は、セルペルカチニブ群6%(95%信頼区間2-11)、対照群20%(95%信頼区間11-31)だった
・192人のうち42人が無作為割付時点で脳転移が確認されており、そのうち測定可能病変を有するのは29人(セルペルカチニブ群17人、対照群12人)だった
・中枢神経病変奏効割合は、セルペルカチニブ群82%(95%信頼区間57-96)、対照群58%(95%信頼区間28-85)で、完全奏効はセルペルカチニブ群で35%、対照群で17%に認めた
プロトコール治療中止を余儀なくされる有害事象はセルペルカチニブ群の10%、対照群の2%に認めた
プロトコール治療中、あるいはプロトコール治療中止後30日間以内の患者死亡は、セルペルカチニブ群のみで7人(4.4%)認めた
・セルペルカチニブ群の無増悪生存期間中央値は2年以上で、対照群の2倍以上である
KEYNOTE-189試験における試験治療群の無増悪生存期間中央値9.0ヶ月と比較すると、対照群の無増悪生存期間中央値11.2ヶ月も有望な結果である