リモート診療での早期緩和ケア導入、という話題が今年の米国臨床腫瘍学会で取り上げられていましたので、その大前提である早期緩和ケア導入について、前提となる臨床試験を取り上げます。
発表当時は、早期に緩和ケアを導入するだけで生存期間中央値が3ヶ月も伸びるのか、ということで随分と話題になりましたし、メンタルケアを含めた症状緩和の大切さが広く認知されるきっかけになったのではないかと思います。
しつこくがん薬物療法を続けることは、必ずしも生存期間延長につながらない、という貴重な知見も提供しています。
Early palliative care for patients with metastatic non-small-cell lung cancer
Jennifer S Temel et al.
N Engl J Med. 2010 Aug 19;363(8):733-42.
doi: 10.1056/NEJMoa1000678.
背景:
進行非小細胞肺がん患者は相当な自覚症状を抱えつつも、その終末期において身体的負担の大きなケア(≒がん薬物療法)を受けることがある。今回は、新たに本疾患と診断された外来患者を対象に、早期緩和ケア導入が患者自己申告アウトカム(patient-reported outcome, PRO)や終末期ケアの実態にどのような効果を及ぼすかを検証した。
方法:
新たに進行非小細胞肺がんと診断された患者を対象に、がんに対する標準治療のみを行う患者群(SOC群)と、それに加えて早期緩和ケアを導入する群(EPC+SOC群)に無作為に割り付けた。QoLと患者の気分について、ベースライン時点と12週経過時点で評価した。評価尺度として、Functional Assessment of Cancer Therapy-Lung(FACT-L、0点から136点で評価され、点数が高いほどQoL良好)とHospital Anxiety and Depression Scaleを用いた。主要評価項目は12週経過時点でのベースラインからのQoL変化とした。終末期ケアに関するデータは、電子カルテから抽出した。
結果:
151人の患者が無作為割り付けされ、12週経過時点で27人が死亡し、107人(生存患者のうち86%)が評価を終えた。EPC+SOC群ではSOC群と比較して有意にQoLが改善していた(FACT-LスコアはEPC+SOC群98.0 vs SOC群91.5、p=0.03)。加えて、EPC+SOC群ではSOC群よりもうつ症状を示すものが少なかった(EPC+SOC群16% vs SOC群38%、p=0.01)。EPC+SOC群の方がSOC群よりも終末期における身体的負担の大きなケアを受けた患者が少なかった(EPC+SOC群33% vs SOC群54%、p=0.05)にも関わらず、生存期間中央値はEPC+SOC群の方が有意に延長していた(EPC+SOC群11.6ヶ月 vs SOC群8.9ヶ月、p=0.02)。
結論:
進行非小細胞肺がん患者の診療において、早期緩和ケア導入はQoL、患者の気分の双方を有意に改善した。SOC群と比較して、EPC+SOC群では終末期に身体的負担のより少ないケアに留まったにもかかわらず、生存期間は延長していた。