・CSPOR-LC2調査の復習・・・EGFRチロシンキナーゼ阻害薬はいつ卒業すべきか?

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 一般に、EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者さんの治療を考えるにあたり、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬を最大限使い、さらには化学療法も最大限行うことで、もっとも長生き効果が期待できるとされています。

 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬は内服薬のため取り組みやすく、消化管症状や骨髄抑制、脱毛といった不快な有害事象も比較的軽微であることから、EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者さんへのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬が適用される確率はかなり高いと思います。

 その裏返しとして、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬が効かなくなったらそれで積極的治療は終了、以後は化学療法はせずに支持療法のみでよい、という患者さんは、高齢者や合併症の多い方ほど多くなる傾向があります。

 楽な治療をなるべく長く、というのは人情です。

 患者さんやご家族の立場からしてもそうですし、医療従事者の立場からしてもまた同じです。

 

 では、実地臨床においてEGFRチロシンキナーゼ阻害薬はいつ卒業すべきなのか、止めどきはいつなのか、という点に一定の示唆を与えてくれる報告として、CSPOR-LC2が知られています。

 残念ながら論文報告として見つけきれなかったので、過去のブログ記事から本研究についての記載のみを抜粋し、独立した記事として書き残しておきます。

 治療対象になるドライバー遺伝子が増えて、治療薬も数々使えるようになりましたので、ドライバー遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんに対する分子標的薬使用時全般で同様の多施設共同観察研究を行うと、非常に興味深い結果が得られるのではないでしょうか?

 

 

 

 

CSPOR(the Comprehensive Support Project of the Public Health Research Foundation) LC-2調査

 

 2014年 日本肺癌学会総会にて


 EGFRチロシンキナーゼ投与開始後の治療経過に関する、我が国で行われた後方視的調査です。

 まず、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬開始後、その治療が効かなくなるまでの期間を次のように定義します。

1)効果判定上の病勢進行(progressive disease, PD)、すなわちRECIST-PD

2)臨床症状もしくは経過からのPD、すなわちclinical-PD

 本研究の対象となった各患者さんについてRECIST-PDとclinical-PDの時点を別々に評価し、どちらの段階でEGFRチロシンキナーゼ阻害薬から次の治療に移ったか、その選択がどのようにその後の病状経過に反映されたか、実地臨床で見極めようとした調査です。


 577人の患者さんが解析対象となりました。
 患者さんを、以下の5群に分けています。
・A群:RECIST-PDとclinical-PDが同時で、PDを確認後ただちにEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を中止し、治療を切り替えた人(169人、29%)
・B群:RECIST-PDになったけどclinical-PDには至っておらず、でもEGFRチロシンキナーゼ阻害薬は中止し、治療を切り替えた人(184人、32%)
・C群:RECIST-PDになったけどclinical-PDには至っておらず、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬を継続した人(98人、17%)
・D群:RECIST-PD、clinical-PD以外の理由でEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を中止した人(79人、14%)
・E群:RECIST-PDにならず、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬を継続した人(47人、8%)


 注目すべきはC群であり、EGFR遺伝子変異陽性患者さんにおけるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の使い方について重要な示唆を与えています。
 RECIST-PDになったけれどclinical-PDには至っていない人、つまりB群+C群は計282人です。
 臨床試験であればこの時点で試験治療は中止されますが、今回の観察研究ではC群の人たちはそのままEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を続けています。 

 RECIST-PDになったけれどclinical-PDには至らなかった人(B群+C群)のうち、そのままEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を続けた人(C群)の割合は、98÷282=35%です。

 実地臨床において、10人中3人以上がRECIST-PD後も治療変更をしなかったことになります。

 
 そして、A群、B群、C群、D群の生存期間中央値はそれぞれ約20ヶ月、23ヶ月、27ヶ月、14ヶ月でした。
 C群が最も長生きしています。
 また、C群が実際にclinical-PDとなって治療変更を余儀なくされるまで、すなわちRECIST-PDからclinical-PDまでの期間中央値は150日だったそうです。
 150日といったら、5ヶ月です。
 RECIST-PDとなってもそこからおしなべて5ヶ月は治療変更までに猶予期間があるということです。
 RECIST-PDになったら、一旦長期旅行にでかけて、今後のあり方をじっくり考えましょう。
 ちなみに、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬を中止した途端に極端な病勢悪化を見る、いわゆる「フレア現象」が確認されたのはわずか1.3%だったそうです。

 

 

 

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